◆9 刺客の視覚は死角から
同日昼、ファストフード店にて。ここで大丈夫なんですかと尋ねる古谷だったが、ある程度人がいる方が都合がいいのでと辰巳は答える。今ひとつ理由が掴めなかったが。古谷がチラリと辰巳の鞄を見ると、服でも入っているかのように膨れているのが見て取れた。今は普通の社会人スーツとも言える服装をしているが。
「それで、古谷修一くん」
「どうして僕の名前を知っているんです?」古谷は虚を突かれたような顔をする。
「勿論知ってるさ、高磯香波さんと一緒に話をしていた時から君を追っている」ニヤリと笑う辰巳。
「高磯の知りあいか誰かですか」古谷の口調は丁寧なものの、怪しさ満載の辰巳に警戒心を隠せない。
「訳ありでね、重ね重ねの非礼を許していただきたい」にこやかに言ってのけるが、そんな事で古谷は懐柔されない。
「ならばさっさと用事の内容でも言ったらどうです、単なる取材では無いですよね」段々と不躾になりつつ有る古谷の声色。
「ならば単刀直入に、高磯さんの提案を受け入れてくれますか?」
「……無いとは思うけど、高磯から手回しでも受けてるのか」遂に丁寧語は外れてしまった。
「いや、高磯さんとは無関係です。しかし彼女を助けるために、君の助力が必要なんです」
しばらく辰巳をにらむように見つめ、古谷は考えこむ。
「正直な話、辰巳さんの言っている提案が分からない」烏丸、という苗字が偶然にも古谷の友人と一致していたため下の名前に『さん』をつけることになる。
「俺自身にも全貌は分からないんですよ、だからこそ無条件で呑んでもらう他ない。こちらから出せるカードは無いですから」
「辰巳さんの所属している団体が、高磯に害を加えるんじゃないのか」
「それは決してありません、彼女は『目標』では無いですから」
「いきなり出会った人物、しかも自分の後ろをストーキングしていた奴を信じろと?」




