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タイトルは「小説の書き方」  作者: ドライパイン
6 街へ行こうよ小説家の2人
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#6 退治

「ノープランで来るとか色々度胸ありすぎですよ古谷先輩」さっきまでの焦りは何処へやら、古谷に強く当たる高磯。

「何を言ってる、これはプランBというものだ。つまり無計画」どこ吹く風で古谷が返した。

「普段やり慣れてないボケなんて無理にこういう場で披露するものじゃないです先輩」高磯の指摘は容赦がない。

「うるせーやい、いっつも竹内先輩にいじられる側でツッコミばっかりしてるからボケの一つも許されないんだよ勘弁してくれよ」最近では新入生にもいじられ始めていた。

「あの人はボケキャラに全振りしてるのは事実ですけど、それを拾う古谷先輩も大概芸人根性ありますよ」

「誰が芸人じゃ、こっちは同期が数学にぞっこんで帰ってこない悲哀の中間管理職だぞ」


 ふざけてんじゃねえぞ、と2人を囲む連中の誰かから声が上がる。そうだ、そうだと輪唱のように群がる声。やがてリーダー格が出てきて、古谷に声を掛ける。

「なーにアンタ、高磯のカレシか何かなの」わざと好奇心たっぷりの表情をしながら彼女が問いかけた。

「違いますが」高磯が先に言う。

「僕の台詞をとるんじゃない、言われた側としてはだいぶ悲しくなる」表情は変えずに古谷が応ずる。

「服のセンスを治してから出直してきて下さい、割と絶望的です」

「制服にセンスもヘッタクレもありますかよ」思わず服を探る古谷。

「着こなしが駄目なんです、今度教えますから」ちらりとも見ずに言ってのける高磯。


「だからふざけんじゃねえよ!」リーダー格が大声を上げる。再び輪唱、しかし今度は高磯も動じない。


 しかし、古谷は哄笑した。


 決して古谷の嗤い声が大きい訳ではなかったが、一瞬高磯の背後がヒヤリとするような、そんな声だった。

 落ちている本を拾い、砂埃をパタパタ叩きながら古谷はリーダー格に近寄る。

「アンタショボイな、案外ほっとしたよ」笑いを崩さず、古谷は話しかけた。

「何、自分が優位に立ったように言い始めるのよ」そうよ、そうよとカエルの輪唱。

「犯行声明めいた物を作ってたみたいだけど、ミステリとしては工夫が足りないな」

 仲林が回収したものだが、彼女は部室に来た時に落としてしまったから今は北野が持っている。

「テメェ何が言いたいんだよ」食って掛かるように、ドスの効いた声でリーダー格が近寄る。

「人を追い詰めるのなら、もっと真剣にやらなきゃ。中途半端は逆に相手を怒らせるよ?」ほんの少し笑いを見せながら古谷は答える。

「煩い、黙れよテメエ」逆上寸前といった所か、リーダー格の声が上ずる。

「さっきの質問の回答」殺気じみた彼女を無視するように、周りの連中に目を向ける。

「彼氏彼女とは違うけど、文芸部に入った友人だ。友人を傷つけるヤツは許さん」

 キモイんだよお前、と殴りかかるリーダー格。だが、彼女の力はさほど強くない。殴りかかる腕を防いでつかみ、そのまま動きを封じる古谷。

 何するんだヘンタイ、とくぐもった声が聞こえた時に、高磯の背後から北野の声がした。


「行くぞー古谷ー!」

「オッケー了解!」さっきまでとうって代わり、ふざけたような声をだす古谷。

 高磯の手をとり、いじめっこ連中の間を抜け走り抜ける。

 待てコノヤロウ、と一瞬の怒号が響いた瞬間。



「ケッハモルタァ・ケッハモルタァ・ケッハモヌラタァ!」

「ゆうびんポストのくせに ふらふらあるきまわったりして!」

「ヒャッハァァー! 汚物は消毒よ~! 火炎放射器ブシャー!」

「かかったな、アホがぁ! Justice Breakerでやっつけちゃうんだから!」

「最初から俺を使えよ、って毎回ツッコミするの疲れたよパトラッシュ」


……民族衣装のような何かをまとった集団に、今度は囲まれる形になった。

「なに、何なのよあなたたち」流石に動揺が隠せなくなったか、リーダー格が怯えて聴く。

「言ったな?」と何処かから声がする。仮面のせいで彼女たちには誰かが分からなかったが。


「聞いて驚け!」「見て笑え!」「我ら、東高生徒に潜むイタズラ魔術師が一団!」

「月と太陽と星々と」「部屋とYシャツと私と」「俺とお前と大五郎に代わって」「スペシャルな、お仕置きを」「用意しました!」「よし、久々にマトモに揃った」

 と揃った発言をするやいなや彼女たちの前の逃げ場と後ろの逃げ場に、バケツを持った数人が揃い、素早く掘られた浅めの穴に流し込む。見ると液体は白く濁っており、粘着性がある。その向こう側にはドロで汚れている、否、汚している大きなタイヤが立てられる。飛び越えることは出来ず、退路は完全に塞がれた。


『お仕置きターイム!』誰かの声が響いた。


 次の瞬間、全員の目の前が黄色く染まった。


「SF研究部室に転がっていた賞味期限がアウトなカレー粉に、ターメリックパウダーを混ぜ込んだスパイシーカレー!」

 なお、仕掛けた方は全員汚れて良い服を着ているものの、メガネをしていない。自爆である。

 うめき声と叫び声と怒号と笑い声が響いて、そこにいた生徒は敵味方入り混じって全員逃げていった。

 


「モグラ原っぱって、懐かしいなこれ」上からカレー粉と胡椒攻撃をしたSF研の1人が呟いた。

 その後、校舎外の下水が黄色に染まっていたことを知るものは割と多い。

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