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タイトルは「小説の書き方」  作者: ドライパイン
6 街へ行こうよ小説家の2人
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#5 対峙 

 文芸部に入ってから、高磯が何となく部室を尋ねる時には大抵誰かがいた。古谷と竹内は比較的よくいる方で、同級生の仲林は一緒に部室に行くことが多く(他の部活に臨時で入ることもある、と高磯に言ったが今のところフリー)北野は数学部を立ち上げようと躍起になっていることを高磯は知る。活動は、というと単に本を読んだりだべったりが多く、場合によっては竹内が所属する天文部と合同でサッカーをしたりと、あやふやな活動内容であった。

 

#

 部活に入り1ヶ月半、学校生活がやや落ち着いてこれから中間考査という時に、高磯の身に事件が襲い掛かる。昼休み鞄から弁当を取り出す時、高磯はある事に気がつく。

 昨日古谷から借りた小説が無くなっているのだ。2,3度カバンの中身をずらして探すも見つからない。おかしいなと思い鞄から全部引き出して机の上に置いてゆく。……ふと周囲の人達の様子を確認すると、どうも高磯の方をみてクスクス笑っていることに彼女は気がついた。嫌な予感がしつつも、全部確認する。1枚、ルーズリーフの紙にグチャグチャの色ペンで書かれた文字があった。

『ミステリ本は頂いた、返して欲しければ体育館裏へ クラスの皆より』犯行声明のつもりだろうか、幾何学模様も書かれている。

「わざわざルーズリーフを使って頂いてありがとう」面倒臭そうに、なるべく聞こえるように、強く見えるように、高磯は声を上げてから体育館へ歩いて行った。

 背後からは嗤い声。

 昼休みで廊下にたむろする生徒たちの集まりにぶつかりそうになりながら、全力で駆ける文芸部の新入生、仲林。彼女の足は空き教室を利用した部室へ向かっている。着いた途端、力任せに扉を開く。

「先輩、いますかッ」部室には古谷と北野、それぞれ本と問題用紙を目の前にしている。

「どうした」ただならぬ様子に、表情が険しくなる古谷。

「香波ちゃんが、クラスの子たちに物を盗られて体育館の裏に」

「僕が行こう、北野と仲林さんは急いで竹内先輩のところに行って」椅子が倒れるかのような勢いで立ち上がり、古谷は教室を飛び出す。間をおかずして3年生の教室へ駆け出す北野と仲林。

 体育館の裏は完全に校舎の外で上履きでは出て行ってはいけないことになっているが、今回古谷は校則を無視する方針で、全力で走った。走りつつ、古谷は後悔する。自分が部に引きずり込んでおきながら、対処を講じなかったのは迂闊だった、なにせ自分は間違いなく目撃者なのに。体育館の周囲に着いた時には、上履きの裏は既に土で汚れてしまっていた。

#

「文芸部、っていう訳の分からない部活に所属してるんだっけー高磯」攻撃者のリーダー格の、いつものアイツが聞いてくる。

「そうだけど、それと今私の物が盗られてる事に何の関係があるのかしら」負けじと睨み返す、元々無表情なので効果があったかは高磯には分からなかったが。

「あーんな変人ばっかりの連中に囲まれて、高磯も頭おかしくなっちゃったんじゃないの」クスクス笑いがついてくるように連呼する。

「別に私の事はどうでもいい、先輩達を悪く言うのは間違いよ」反論するように高磯は言う。

「そう、自分のことはどうでもいいのね」ニヤニヤ笑いがますます酷くなったアイツは、懐から高磯の本を取り出す。……古谷から借りたミステリ本であった。

「それ、どうするつもり」あえて内心の動揺をださないように高磯は努める。

 返事もせずに、アイツは地面に叩きつけ、下足で踏みしめた。

 高磯は目を見開く。

 自分のせいか。

 自分のせいなのか。

 自分が悪いから、他人様に迷惑をかけてしまうのか。

 苦く、黒い感情にめまいを感じる高磯。


 その時、ゼエゼエという切れ切れの呼吸。

 

 見ると、本の持ち主の古谷だった。

 見ないで欲しい、こっちに来ないでくれ、申し訳無さと恥ずかしさがごちゃ混ぜになりながらこちらへ来る古谷を見つめる高磯。やがて高磯の隣に古谷がやってきて、ふと呟いた。 



「どうするよ、この状況」困ったように。

「まさかノープランで来たんですか古谷先輩」恥も罪悪感も吹っ飛んだ。

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