#3 2人の新入生
「昼飯は持っているようだから、奢るのは明日にでも」部室への案内をしながら、古谷は声をかける。
「そもそもこの学校には食堂があるんですか」高磯の入学式の時にはそんな話題が無かった。
「売店なら、何故か売り物に地球儀があったりするが」冗談だろうか、と高磯は思う。
よし到着、と古谷が案内した先の空き教室には「文藝部」とわざわざ難しい方の字が書かれたA4のコピー用紙が張られていた。
「部長、回収完了しました」
「おっつかれい! ……あら、カワイイ娘じゃない」迎えてきたのは、恐らく3年の先輩だということが高磯には何となく感じられた。
「カワイイとか言われても困ります、違いますし」表情は崩さないまま、高磯は答える。
「無表情っ娘ときたか、これは倍率ドン」何故か更に食いつく3年生。
ま、弁当広げてアイスブレイクでもしましょと言われ、3人は席につく。
「香波ちゃんの弁当は自作なの?」購買で買ったという三色パンを頬張りつつ先輩は尋ねた。
「昨日惣菜コーナーで買った余り物を詰めて持ってきました」とほうれん草のごまあえをつまむ高磯。
古谷は、というとゼリータイプのエネルギー飲料。
「シュウちゃん、そんなん食べてるとモヤシになるわよ」
「後輩勧誘するからメシ軽いのにしろって言ったの先輩ですが」ジト目で古谷が返す。
あっ、そうだっけゴメンネと微妙に無感動な返答を返す3年の先輩。やれやれと言わんばかりに古谷は肩をすくめた。
「大丈夫よ後輩君、シュウちゃんは数日お水をあげなくてもちゃんと育つから」
「サボテンみたいに扱わないで下さい、あとシュウちゃんって呼ぶのはやめって言いましたよね」
なんだか、仲がいいな。
そう高磯は思った。
「さて香波ちゃん、我らが文藝部は週一から参加可能だ、勿論それ以上でもそれ以下でも構わない」
「素直に入って下さいお願いしますって言ったほうがいいですよ」古谷の忠告はスルーされる。
「今なら古谷君のおごりで購買のパン10個の出血大サービス!」
「先輩が8個分払ってくれるのなら考えますが」
「ぐぬぬ」
「お邪魔しまーす!」ガラリと教室のドアの開く音がする。高磯が振り返ると、そこには別の女子がいる。
高磯が気が付くと、いつの間にか彼女に手を握られていた。
「あなた……『覚悟して来てる人』……ですよね?」握りつつ問いかけてきた。
「いえ別に」高磯はムベもなく返す。
「出合い頭にいきなりパロディで特攻仕掛けるのはお勧めしないぞ、新入生」先輩がツッコミ。
「え、新入生?」部活の雰囲気に慣れ過ぎじゃないか、と高磯は思う。




