#2 勧誘は体当たり
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昼休み中の廊下を、古谷は駆け足で通り抜ける。昨日新入生に渡した文集に、なにやら3年の先輩がメモを残していたらしい。そんなのを文集に書くなよと古谷は思うが、先輩に「文集ごと新人を回収してこい」との命令を喰らってしまったためだ。下駄箱の位置を見たため彼女の学級はわかるが、久々に他学年の集まる所を歩くので古谷自身も違和感を禁じ得なかった。どうせならもう一人いる同級生に頼んで欲しかったと思うが、奴は数学にハマっている、ポアンカレ予想がどうのこうの言っていたなと古谷は思い出す。
まだこの時期だから、昼休みになったからといって積極的にグラウンドに飛び出して遊んだりはしないだろう、と踏み教室に踏み込む。
「すいません、2年の古谷ですけど。昨日文学部の文集を渡した人いますか?」
……返事はない。見ると、机で弁当を食べる一人を、何人かの女子達が囲んでいる。
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昨日渡された文集は、高磯にとってそれなりに興味深いものだった。長めのミステリが好きな高磯には物足りないものがあったが、それは文集の文字数の関係上しかたがない。それ以上に短めの詩が色々と気になった。一部に謎の落書きが残っていたのはよく分からなかったが。確か、「ナリング干渉計を利用したブルーライトカット法」が何とか書かれていた事を高磯おぼろげに思い出す。
「ねぇ高磯さん」
上から声がする。嫌な声だ、散々中学校で自分をいたぶってきた声。
「なんでしょうか」顔をあげずに、昼の弁当をつまみつつ高磯は返答する。
「ヒトが声掛けてあげたのに、そんなツッケンドンな態度はヒドイわー」
高磯は、何も感じなかった。ただ少し面倒に思ったので一旦食べるのだけはやめにする。
「なんでしょうか」
「ちょっと、顔貸してくれないかしら」
「お断りします」コイツのために立ち上がるのも面倒だ。
なによそれムカつくー、聞いてよ皆コイツヒドイよと学級の人間を呼び寄せる。もうこんなにも手駒を集めたのか、と高磯は別の意味での驚きを覚えた。
「アンタ、高校でも同じ目に会いたいの」声色を変え、冷徹に問い詰めてきた。
ああ。
ため息が出そうになる。
その時だった、ガラリとドアが開く。
「すいません、2年の古谷ですけど。昨日文学部の文集を渡した人いますか?」
…………。
立ち上がって文集と鞄と弁当を持ち、高磯は古谷のもとへ歩いてゆく。