◆5 約束は契約に替わり
「契約、ってなんなのさ」一口ほどキャラメルフラペチーノに口を付けた後、古谷は尋ねる。多分このままだとだんまりが永久に続きそうに思えたからだが。
「小説を書いてもらいたいんです」およそ契約とは思えない回答が帰ってくる。
ふむ、と視線をテーブルに向けて古谷は考えこむようにする。
「何処かの雑誌か本に投稿するための小説を書いて欲しいということか」
「ある賞に、一緒に応募してもらいたいの」古谷にとって更に予想してなかった返事。
「契約、って言葉は間違ってないかな?」古谷のイメージ上、印鑑を撞くような物事が契約である。
「どちらでも構いません」
再び沈黙。破ったのは再び古谷の方だった。
「さっきも言ったけどさ。ホント変わらないな、良い意味で」苦笑いと共に言う。
「そうかしら……」と首をかしげながら考えこむ高磯。
「2年近く会ってなくて大学デビュー、キャピキャピの女子大生だったらどうしようかと思った」
「キャピキャピって、世代として言葉がオジン臭いわよ」
「あと無言気味になる辺りもだな、僕もあんまり喋るタイプでは無かったけど」
「そこはまあ、私の根本的な性質だと割り切っているから」
「悪くはないさ、ただ単純に部活の頃を思い出してしまって」
文芸部、かつて高校で高磯と古谷が共に所属していた部活。
「残りの連中とは連絡取り合ってるか?」
「この前のメールに『素数は俺の嫁』って書いていた人が」
「アイツは放おっておけ、多分ヤツは文芸部で過去最大の歪と呼ばれることになる」




