15 小説、再開
「叔父さーん」書店の勝手口から烏丸が戻る。
「話はもう終わったのかい?」ちょっと意外そうな顔をする叔父、時間にしてまだ10分経っていないためだ。
「ええ、このお花を頂いたばっかりですけど」
「……トルコキキョウか」
「知ってるんですか、雷電」
「スキンヘッドにする予定は無いんだけど」ちょいワルを気取る割に、髪は黒く染めただけの叔父。
「民明書房の本とかありませんかね、この書店に」
「トンデモ本の類なら割と溢れていると思うんだけど」と言いつつ、レジ裏の棚から本を取り出す。
烏丸が見ると、それは花の大百科事典のようなものであった。写真付きで、あまり「花」と言わないようなものも写真として掲載している。
「……っと、あったよトルコキキョウ」
古谷が持ってきたカゴの花と、同じ花があった。パステルブルーのトルコキキョウだ。別名はユーストマ、とも書かれている。
「花言葉は……『すがすがしい美しさ』『優美』『よい語らい』『希望』?」
ほほうと叔父が呟き、ニヤリと烏丸に笑いかける。
「ミカちゃん、古谷君の事を大事にしなよ」
「あれは絶対告白とは違ったと思うんですけど」冷静な烏丸。叔父を〆る回数をカウントアップする。
「イヤイヤ、そういう意味とは違ってね」烏丸の表情から何かを感じ取ったのか、やや叔父が慌てる。
「トルコキキョウには別の言葉があってね、『元気』だったか。今ココには書いていないけど」
烏丸は、花束を贈ってきた時の古谷の表情を思い出そうとする。
「良かった良かった、最近ミカちゃん元気なさげだったからさ」
じゃ、後は頼んだよと言い残してレジカウンターを出て行く叔父。
残された図鑑と、カゴの花束をレジ台に置いたまま、すこし烏丸はぼんやりしていた。
――――
その夜、下宿先に帰った烏丸。トルコキキョウのカゴをを書斎机に置き、ワープロを立ち上げた。
「私は、どちらかと言うと『花より団子』だと思うんですけどね」
言葉と反して、花束を見つめる烏丸の顔は不思議とほころんでいた。
彼女は再びワープロのキーを叩き始める。読者と友人のために。




