14 花束、元気
叔父の書店にて、二人は会うことに決めた。『少しだけ渡したいものが有る』と古谷から連絡を受けている。
「じゃあ、一旦行ってきますね」叔父にひと声かけて、レジスターを離れる烏丸。ほいほーいと、軽い返事が帰ってくる。長時間会うという風に言われたでもなかったし、烏丸は休憩を20分ぐらいで済ませる予定だった。
書店の従業員専用通用口、兼叔父宅の勝手口。烏丸は金属製のドアにより掛かるようにして古谷を待つ。
2,3分も烏丸が待たない頃であろうか、古谷がやってきた。片手には花束の入っているカゴ、何故か硬い表情で。
「……どうしたんです、古谷さん」
「自分でもよく分からん」と言いながらも、カゴに入った花を烏丸へ渡そうとする古谷。
「取り敢えず、トルコキキョウ、あげるからさ」切れ切れとした単語の会話で古谷は告げる。
カゴの花は、白色の花びら、先端に紫がかった青色が映えた花であった。
「渡したいもの、ってこれですか」カゴを受け取りながら烏丸は尋ねた。渡されるほど祝い事か何かあったっけ、と烏丸は思い返そうとする。
「まあ、うん、そのさ」一方、明らかに古谷の目線は宙を泳いでいる。
「えぇっと、有難うございます」不自然な古谷の態度に、烏丸も少し動揺した。
「小説、頑張れよ。僕は烏丸サンの書いてる小説、好きだからさ」
ここで例の小説の話が出てくるとは思わず、一瞬虚を付かれる烏丸。
それじゃ、と言い残して古谷は逃げ去るように走って行った。
一人取り残されるように、烏丸はカゴを持って立ち尽くす。




