12 花屋、言葉
卯島と相談した翌日、古谷は店に買い物に出た。なるべく普段会うような学生や友人に出くわさない、駅から離れた花屋。卯島からのアドバイスもあり、その店には迷わずたどり着くことが出来そうである。昨日の会話を思い出しつつ、花屋へ向かう古谷。
「その子の作品のファンに、アンタがなってやんなさい」卯島の助言は簡潔であった。
「具体的に何をすればいいのか、正直わからないんだ」
「花束でもあげて、『貴方のファンです、これからも頑張ってください』とか言えば?」
「…………。」
卯島と相談していた時の古谷はあまり良い考えだとは思わなかった。ただ、今こうして花屋に行く自分を省みつつ、他の案は無かったなと思う古谷。こういったことは彼は今までしたことはない。友人に花を贈るも、積極的に励ましたりするのも、小説を一緒に書くのも。
「いらっしゃいませ!」
花屋に入ると、女性店員の元気な声が飛んでくる。容姿だけみれば自分と同年代くらいか、と古谷は心の中で思う。流石に年齢を尋ねたりはしなかったが。
「すいません、友達に花束でもあげようかと考えているんですけど」
「はい! ……彼女さんでしょうか?」
「いえ違います」自分が驚くほど瞬時に返してしまった古谷。
あはは、失礼しましたと笑顔のままの店員。その反応に古谷は少し助かった気がした。
「友達が、最近落ち込んでいて。元気を出してもらえたらなと思ったんですけど」
「病気とかではなく何かがあって落ち込んでいる、ってことですよね?」
「そうです、どんな花がいいかさっぱり分からないんですけど頼めますか」
「お花は今日渡される予定ですか?」
「いえ、出来れば今日は花束の予約だけでもして頂ければ。渡す日は別にしたいので」
古谷がそう言うと、店員はレジ裏の本棚から花の図鑑を出す。
「この花は如何でしょう。花言葉もきっとピッタリかと」




