9 電話、漫画
翌日、烏丸は叔父に電話を掛けた。
「叔父さん、面白い漫画って何ですか」
「出がけにどうしたのミカちゃん」
「ミカちゃんとか言わないで下さい締め上げますよ」
「待ってよ、最近書店でもミカちゃんの権威が強くて僕の立場が無いんだけど」
「2回言いましたね、今度バイトに行く時に2回締め上げます」
「随分バイオレンスだねミカちゃん!?」
「……」電話口で押し黙る烏丸。
「ごめんって、そんなに嫌なのかい」
「叔父さんが、古谷くんとの『枕探し連合』をやめること。あと、時々店でやる『ちょいワルスタイル』をやめてくれたら考えてあげます」
「最近おニューのサングラス買ったし、コーヒーにも慣れたし今更無理だよ」
「ちょいワルになるって決めてからコーヒーを飲み始めるのがおかしいんですよ!」
「じゃあミカちゃん呼びは止めておくよ」
「2度あることはサンドバッグですね、覚えておきます」
「あ、うん、どうして電話してきたの」慌てたように本題に戻す叔父。
「面白い漫画を教えて欲しいんですよ」これも2度めですよ、と軽く言う。脅しのつもりは烏丸には無いが、叔父には十分効いてしまった。
「ええと、ええと」電話口ですら見える慌てぶりを、烏丸は幻視した。
「ジャンルみたいなものは有るの?」
「長いストーリーものは厳しいかと、続き物でも軽く読めれば大丈夫です」
「ちょっと待って」と言い保留の音楽を鳴らす叔父。「そよ風の誘惑」を聞きながら、漫画の類をこれまであまり読んでいなかったなと烏丸は考える。週刊誌を買うよりも、そのお金を貯めてからゲームを買うような学生生活を送ってきたためだろうな、と自己完結。
「趣味じゃあ無いかもしれないけど」と保留を切ってから言い出す叔父。
「『ジョジョ』だったり『ブラックジャック』だったり『ドラベース』の本が手元に有る」
「グロもあるよ、っていう配慮助かります。だけど私は別に大丈夫ですよ」
「全部読んだこと無いのかい?」
「漫画の類はあんまり普段から読まないので」
「オーケイ、在庫はキープしておくよ」
「あら、無料ですか?」
「社員割だよミカちゃん」ケラケラと笑いながら叔父は答えた。
「わかりましたよ4回ですね完全に記録しましたので」と言いつつメモ用紙に書き込む烏丸。小説執筆を志してから、メモ帳を持つことも習慣と化していた。
「怖いよ、じゃあ何て呼べばいいのさ!」
「『烏丸副店長』ですね」
「仮にも僕は店長だよ!?」




