6 喫茶、新規
古谷と卯島の取材の日。結局二人は、古谷が決めた店で集合することになった。そう、衣川店長の店。
「……なんか、店長そわそわしてないかしら」と、店長の態度に違和感を感じる卯島。
「そうかな、いっつも無表情な人だからあんまり良くわからないんだけどさ」
「喜んでいるんだけど表に出さないよう努力している感じがするのよ」
「ひょっとしたら卯島さんが新規客と思っているのかも、ここ客足少ないし」と小声で囁く古谷。コップを磨いている最中だが、聞こえたかどうか古谷には分からなかった。
へぇ、それでとあんまり関心がなさそうに卯島は漏らす。早い内に本題に取り掛かろうと古谷は考えた。
「相談の内容なんですけど」
「掲載中断の依頼なら断るよ」
「違いますけど、横暴なこと言いますね」
「君を社会人と認めてのことよ、契約違反は許されないんだから」と言いつつ笑顔を見せる卯島を古谷は見つめる。
それが質問の本題でないことを見抜いてわざわざ言ってくる、面倒な人だよなぁと思いながらも、本題に入る。
「卯島さんは、自分の書いた内容について批判された時どういう風に対処しましたか」
「批判も対処も無いわよ、ただ上司に怒られて『ああ面倒くさい』と思うだけ」古谷はぎょっとする他無かった。
「だってそうでしょう、一応は取材に基づいて色んな人と相談して『これを世に出していい、批判を受けるのは承知の上』と決断した上で新聞として発行したんだから」
「それで批判を受けて、傷ついたりはしないのかよ」古谷が問い詰める形になる。
「そんなことは無いわね」
「…………。」ノータイムの返答に、思わず古谷はたじろぐ。
「傷つく、ってことは相手の発言を真実だと受け入れることよ、自分が正しいと思っていれば相手が何を言ったって揺らいだりはしないわ」
「それは少数派の意見を切り捨てることにはならないのか」古谷は食い下がる、自分自身が少数派に置かれているかの如く。
「社会の原則は民主主義よ」古谷の願いも虚しく、卯島はあっさりと返した。
「少数の批判を避けるよりも、多数の支持を得る。そっちのほうがはるかに優位に立てるわ」
「じゃあ、言われっぱなしでいいのかよ」この店が閑古鳥が鳴くほど人がいなくて助かった、と古谷は思う。
今度ばかりは、思い切り声を張り上げてしまった。
「……何が言いたいのか、きちんと説明してもらえるかしら?」




