5双六、振出
小説を中断して数日、烏丸はそれなりに落ち着いた生活をしていた。小説を各事自体を忘れてしまえばそう悩むこともない。
長いこと書店でアルバイトしていた分、ゲームの1つや2つは購入できる。わざわざ中古屋で楽しいスーパーファミコンやプレイステーション(1)のゲームを探す必要は無いだろうということで、今日は電器屋で新作のゲームを選んでいる。
「叔父さんったらせっかくウィーフィットユー買ったのに全然使わないんだし」とぼやきながら、結局買ったのはすごろくゲームのマリオパーティ。しかも結局64のを。
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自室で遊びながら烏丸は意外にもハマってしまっていた。……ねじまきヘイホーに。
昔の3Dスティックでの回転で掌を傷つける人がたまにいたらしいが、その気持ちも烏丸には分かる気がした。
「ぜぇ、はぁ、なんだこの記録……」肩で息をしながらテレビ画面をにらむ烏丸、そこには破ることの出来ない、前所持者の最高記録75回があった。
「秒間7.5回転ってなんですか神砂嵐か何かですか3Dスティック溶けるわ」烏丸は畳に倒れこむ。
ふとその時、携帯の着信音が鳴る。見ると烏丸の妹からであった。
「ねーちゃんおっすー、今マリパしてるんだけど来るー?」
「どこでもドアをよこしなさい、あとこっちもマリパやってるから」
「クッパパーティで叔父さん潰して喜んでるんでしょ、ドSだなぁお姉ちゃん」
「ねじ巻きヘイホーよ、75回転とかいうトンデモ記録に挑んでる最中」
「昔のゲームばっかりやってるからお姉ちゃん時代遅れって言われてるんだよ」
「電話口からジャイアンボイスでも流してやりましょうか」
割と不毛な会話が続く。電話口から妹の友人の声が流れてくる、多分遊んでいる途中掛けてきたのだろう。
『あ゛ー、また3マス戻った!』
『烏丸ちゃんきっとニヤついて戻ってくるよ……』
『クッパパーティしてるときの烏丸ちゃん、スッゴイ活き活きしてるし』
「フッハハハー、いっそ振り出しにでも戻ってボコボコにされたいかー!」
「ドSはアンタじゃないの」姉は妹に対して冷静にツッコミ。そう言えば古谷さんも妹に振り回されていた。
じゃあ切るよ、と言って電話を止める。本当に何をしに電話をしたんだろう。多分ノリだ、きっとそうだ。
そういえば例の双六には振り出しというものが殆ど無い。
……振り出しか、と何かを思いついたかのように起き上がる烏丸。




