2 相談、停滞
翌日。烏丸の方から、古谷に例の喫茶店で会おうと連絡が行った。いつもは週に1回だとか用事があれば2週に1回事前に決めて会っていた古谷にとって、この連絡は少し意外なものだった。
そして約束の日、衣川店長の店は定休日なので烏丸の決めた店になった。
「最近、古谷さんの小説はいかがですか」
「いかがも何も、同じサイトに小説をアップロードしているじゃないか」質問の意図が見えず、古谷は困惑し目を細める。
「小説の進展ではなくてですね」と言いかけたあたりで烏丸は口ごもる。
「……小説の評価とか?」古谷が当てずっぽうで答えたものの、烏丸は頷いたものの無言。古谷は続ける。
「どうだろ、結局こちらも昔とは違うペンネームで書いてるし、無名の小説だよ」本当にすごい小説家ならすぐにバレるんだろうけどね、と笑いながら古谷は言う。
「古谷さん、小説家としてはまだまだということですね」といい笑顔をしながら言ってのける烏丸。
「……うん、まあ先に自虐的な事を言い出したのは事実だけどさ」やや落ち込んだように古谷が返答した。
ケラケラと烏丸は笑い、その話は一旦そこで終了した。
――――
再び深夜、烏丸の下宿。烏丸にとって、ワープロに向かうことは普段の生活習慣のようなものになっている。今日も事前に作っていたプロットから、原稿用紙1枚程度のストーリーを書こうと手をキーボードに置く。
…………。
てが、うごかない。
いやいや、そんな事はない。変な汗が出かかってしまい、烏丸は手元のコーヒーに口を付ける。熱いものの、勢いのまま飲み込んだ。再び手をホームポジションへ。
…………。
書けない。
手が、進まない。
目の裏側に「酷い小説」の文字がチラつく。
ウィンドウを閉じた。
――――
烏丸と会った3日後。烏丸と同じサイトに小説をアップロードしている古谷は、もう3日間烏丸の小説が更新されていないことに気がつく。毎日更新というのは別に契約だったり約束だったりではなく心がけ。古谷自身も1日間に合わなくなった事があったが、烏丸の方でこうも連続して停止するのは初めてだった。
『病気でもしてるのか、叔父さんに菓子パンとか頼んだらどうだ』余計なお世話か、と思いつつ短いメールを送る。割とすぐに返信がある。大丈夫ですという旨のメールだったため、古谷はスマホを布団へ放った。
「…………。」どうも不自然だ、と古谷は感じた。
結果としてはその通り、烏丸の小説はその夜も更新されなかった。
烏丸に直接尋ねるようにはせず、古谷は原因を探り始める。




