G そして小説を綴り
烏丸は気恥ずかしさのあまりに取り乱してしまったものの、『鳥井』は見事に主人公の危機を救ってみせた。烏丸にとっては困惑する限りであった。祖父にこんな不可思議な趣味があったとは。人に読まれる前提で書いていないとしても、名前を書いて欲しくはないと彼女は思った。ただ、最後の1ページ。祖父が最後に書いたであろうページを読んだとき、気持ちが少し揺らいだ。
『明日はあの街に戻れるだろう。鳥井水果や多くの仲間たちと共に、様々な刺客と戦った地。久しぶりに彼らに会うだろう、積もる話は多い。
星が、夜空に瞬いていた。』
祖父がアルツハイマーで親族の事を忘れていたことを思い出す。烏丸自身も祖父の面会に行ったが、烏丸にとっても初めて会うような人物、相手は自分のことも覚えていなかった。このページを書いた日の翌日、祖父の意識がなくなったと聞いている。
祖父は、私のことを最後に覚えていたのだろうか。
祖父にとって、『鳥井』は『烏丸水果』であったのだろうか。
ノートのページは途中で途切れている。この物語が未完のまま終わってしまっている。そのことに烏丸は口惜しさを感じる。
小説に、祖父はどのような結末を加えるつもりだったのか。
書き手のいなくなった物語であれば、その結末をどのように想像しても構わない。ならば。
最後のページの行の一つに、烏丸は「終わり」を付け加える。
すとん、と心の中に落ち着いた。
――
それからというものの、烏丸にとって本は単なる娯楽として捉えれるものではなくなった。
あの時彼女が集めたのは、紛れも無く祖父自身の記録であった。この小説をどうみるかも、読み手も想定されておらず、書き手はいなくなってしまったのでどうしようもない。ただ、烏丸はこれを大事にしようと考えている。
彼女が書店員のアルバイトを了解したのはその数日後のことであった。
烏丸編、ひとまず完!
字数カウントしたら五千字行ってました。本編ほっぽり出して何やってんだわさ。
古谷君の方の過去編も頑張ります。
次回は軽く小説談話、あと新キャラ(?)登場です。