1.教師は作文が得意
「普段は書店員として本を扱っている私ですけど、一度は自分の本が書店に並ばないかなって想像することもあるんです!」書店員である烏丸が、小説を一度書いたことがあるという古谷にそう相談したのは二人が出会ってさほど回数が立っていない頃のことであった。
「ほう、実際に本とか書いてるの?」言葉とは裏腹に、驚きの表情があまり出ていない古谷。彼が書いた小説、というのを烏丸はまだ詳しくは聞いていない。
「いえ全く。箸より重い物じゃないですけどペンなんて殆ど持たないですね」
「いつもの生活に書く習慣をつけることが大切だよ……ってネットで言ってた」
「なるほど、分かりました、明日は日記を持ってきますね。古谷さんもお願いします」
えっ、と思わず声を上げる古谷。意外に思うというよりは明らかに動揺していた。
――
「それで烏丸さん、なんで日記を7冊も持ってきてるのさ」目の前のノートの山にうんざりするような目を向ける古谷。
「はじめの方だけ書いた日記が部屋に転がっていたので!」
「小説とはまた別の訓練が必要なんじゃないかな…」
「古谷さんは、それ大分古いですけど?」古谷の持ってきたノートを手に取り疑問を口にする烏丸であった。
「これは中学校の学校用日記。先生との交換日記ともいうやつ」
(古谷)『今日は花粉症日和でした』
(先生)『古屋君も花粉症ですか、先生の妹も花粉症でいつも鼻を鳴らしています。花粉症日和って面白い響きですね。これはあまり関係ないですが小春日和という言葉は正しくは秋から冬にかけての季語のようです。いつか花粉症日和が春の季語になる日もあるかもしれないですね。』
「学校の先生ってすごいですね」眺めて感嘆した、という風に烏丸は漏らす。
「うん、僕も久々に見返してみて驚いた」
「決めました、私小説書くために教師になります!」
「史上最大級に不順な動機が出来やがった…」普段からジト目気味の古谷の目がますます細くなった瞬間であった。