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タイトルは「小説の書き方」  作者: ドライパイン
10 自分たちはどうして
187/191

11 贈り物

「高磯、この前は悪かったな」病室での通話。相手は高磯だった。

「私が原因ですから」

「あんな事言ってしまったけど、未だに僕は迷っている」

「……私も、ですね」相手も苦悩していることにふふ、と古谷は笑う。

「完全に辞めないで居てくれた事に感謝する」

「私は」それだけ言って一瞬迷ってしまう高磯。

「私の小説が優れているとは思いません」

「そうか」

「先輩が書いていなかったら、私は小説を書いていませんでした」

「嬉しい言葉ととっていいのかな」

「1人の読者として言いたいです、これからも書いて下さい。書き続けて下さい」

 暫く反応できずに居る古谷。深呼吸をひとつするも、自分の携帯を通して音が聞こえた。

「……烏丸が言った仮説なんだが。もし読者が居ない小説が有るとしたらどんなものだ」

 考えこむ高磯は唸り声の一つも上げない。やがて恐る恐るといった感じで言い始める。

「私が考えるには、それは小説では無いと思います」

「読者あっての、ってか」

「そもそも名前が付かないですから。見つからない事は存在しないのと一緒です」

「そういう考え方も有ったか」

「先輩は、どう思ってるんです」

「目的無しに書かれた小説と同じだ。読者は作品に何かを見出すかもしれないし、つまらない小説だと言って一蹴するかもしれない。作品にいつの間にか読者が現れるかもしれないし、現れないかもしれない」

「作者の思いは無視される運命ですか」

「予定通りいかないんだよ案外。お遊びで書いた小説が本業の小説より評価される事だってあるんだし」

「伝えたいことが伝わらなくても、作者は声を発することは出来ないんですか」

「……また次の小説の種にでも出来るさ。書き終わって何もかも終わるわけじゃない」

「…………そう、ですね」

==

 古谷の入院生活3日目にして退院予定日。迎えに来たのは烏丸であった。家族は家が遠いので別の日に来る事を聞いていたため、突然の来客に驚く古谷。

「本当に来てくれるとは思わなんだ」

「退院見舞いが色んな人から来てるんですよ、卯島さんからは何故か茶葉が送られましたけど」

「なんで卯島さんと知り合ってるのさ、あの人のメール見せてあげよっかギャル文字酷いぞ」

「そんな意外性溢れる一面は別に知りたく有りませんでしたけど」そういって烏丸は右手に持ってる小箱を古谷に渡す。

「香波ちゃんからのプレゼントです、甘いモノなら機嫌直してくれそうって言ってました」中身はケーキ、高磯自作ではない。

「子供扱いされてもなぁ」古谷は思わず吹き出した。

「私からのプレゼントなんですが、これで」そう言いながら取り出したのは、プラスチックケースに入った万年筆。

「使い方は、自由ですよ?」

「参ったな、僕はパソコン派なんですけど。大事に使わせて頂きます」軽い礼をして受け取る古谷。

「古谷さんの原稿、残っているページの修復は終わりましたよ。後は無くなったページを書けば完了です」

「このペンの初仕事、ってわけか」

「右手は大丈夫です?」

「いつもの喫茶店で書こうかな。もし書けそうになかったら協力してくれるか」

 はい、と烏丸はにこやかに頷く。古谷はふと思い出した。

「脱稿、お疲れ様」

「……ありがとうございます」一瞬虚を突かれたようにぽうっとする烏丸。

「誤字脱字がヤバイから修正しよう」

「えー」

 歩き出す2人。古谷は万年筆を握りしめ、烏丸は鞄の中の2人分の原稿を思う。

 だけど2人共、心の何処かで次の原稿をどうしようかと考え始めていた。

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