8 思いをこめて、もう一度
入院生活2日目、3人めの見舞客は烏丸だった。
「……昨日はごめんな、急にパニクったりして」思い出して古谷が謝る。
いえ、と軽い前置きして烏丸の方から言い出す。
「小説を書くの辞めた、って聞きました」
「……本来はもう、僕自身の目的は果たしているからね」
「以前、私の小説を読んでいるって言ってくれましたよね」
「読者を止める気はないさ、これからも頑張って欲しいと思ってる」
「そのことは有り難いと思いますが、私には別の考えがありまして。もし古谷さんの小説に読者が全くいなかったら書き続けてたでしょうか」
「……あー、どうだろ。ひょっとしたら止めてたかも、そんなに執筆に情熱溢れる人種じゃなかったし」
「私に合わせて書き始めてくださった、というのも一番の理由ではないですよね」
「そういえば同時期だったなぁ。ネタ探しに大量のノート持ってきたりしてたっけ」
アハハ、と苦し紛れに烏丸は笑ってみせる。
「思うに、書きたいから書くんじゃないでしょうか」祖父の家で出した結論。理論というには余りにも歪な答え。それでも、一緒に執筆した友人として筆を折ってほしくは無かった。
「身も蓋も無い事を言うなぁ、その気持ちが会ったら世の中にモチベーション不足で苦労する作家は居ないぞ」
「そうなんですけどね。でもあの時の古谷さんは何かを書きたかったんだと思います」
話を合わせてくれた部分も有ったと思いますけど、と烏丸は付け加える。
古谷は俯いて何も答えれずに居る。
「私がこうして欲しいって言うのはどうしようもないです。何と無く今後のことポジティブに考えれたら良いかなって。一先ず右腕がキチンと治ったら退院見舞いとお花のお礼はしますから」
「……覚えてたのか、こっちはすっかり忘れてたぞ」ちょっと驚き古谷は顔を上げる。
色々考えておきますね、と見舞いの菓子類を置いて烏丸は去る。
「少し、考えてみる。色々と」去り際に古谷が答える。烏丸は少し立ち止まり、頷くようにかぶりを縦に振る。