B 烏丸店員の祖父について
烏丸には、彼女の祖父との記憶が無い。
物心がつく3歳4歳の頃から、祖父が亡くなるまで祖父と両親が仕事の都合で別のところで暮らしていたためだ。いわゆる核家族である。彼女の友人との会話でふと思い出すほど祖父と繋がりは無かったと言っていい。何故思い出したのか良く分からない。
友人との会話から次の土曜日、烏丸は祖母の家を訪れた。祖母自身は両親と暮らすようになったために祖父の家は広い物置となっている。二畳ほどの庭では、かつて祖父が野菜の類を植えていたと聞いたが今は長い雑草が生い茂っている。
2階建てのうち1階にはもう物がない。祖母が必要なものと軽い思い出の品は既に運ばれ、大半の家財道具は処分してしまったと聞いた。物が残っているのは2階、祖父の書斎と二人の寝室である。寝室の布団の類も残されてはなく実質的に彼女がモノ探しをするのは書斎であった。
「さて、これはどうしたものでしょうかね」と思わずこぼしてしまうほど、書斎はゴミ屋敷のようであった。正確に言えば、紙屋敷。
よく臭いの類がしなかったものである。祖父は結構だらしない性格だったのだろうか、と思わず邪推する。祖母からも祖父の話はあまり聞いたことがないため、床一面に広がる黄色がかった紙たちは烏丸には衝撃的であった。
しかし、彼女をより驚かすものは別にあったのだ。