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タイトルは「小説の書き方」  作者: ドライパイン
10 自分たちはどうして
179/191

3 「一日だけ失踪していました」

 差し入れのドリアンを完食し病室で再び横になる古谷。考えるものが多く、表情に浮かない様子が出ていた。烏丸との通話をしたばかりであるがもう一度発着信履歴を眺める。昨日一日だけで普段使われない履歴の半分近くが埋まっていた。その履歴の中で一人だけ残る「不通」のマーク。高磯の電話番号であった。

 迷惑だろうか、とほんの少し思いながらももう一度という思いで通話を掛ける。

 ……古谷自身も驚いたことに繋がった。一瞬声が出なくなる。

「一日だけ、失踪していました」高磯の声の調子はというと、いつも通りだった。

「0.04%死んでたって事か」慣れない左手で携帯を耳に当てて古谷が会話を続ける。

「傷の具合大丈夫ですか」

「ドリアン食わせられたから治りは早くなると思う」

「何ですかその原理」

「発酵食品は体に良いからな、臭いものも多分体に良いんだろ」

「ドリアンをアルコールで発酵したら本当に死にますよ」

「ありゃ迷信だ、科学的根拠は存在しない」

「迷信が出てくるにはそれ相応の理屈が有るんですよ、怪談話しかり民俗信仰しかり」

「個人的にはかまいたちの怪談話が気にかかる、あいつら一体何の目的で切ったり接いだりしてるんだ」

「あれは普通のつむじ風です」

「夢がないねぇ……」

「…………居なくなってすいません」

「原稿は届いたし、事件の解決は辰巳さんがやってくれる。別に腕が動かなくなる訳じゃないんだから」

「……古谷先輩の原稿、絶対に直しますから。落ち着いたら烏丸さんと連絡取って一緒に」

「それなんだけどさ、もう僕は書くのを辞めようかなと思う」

 古谷の電話口からも、高磯が息を呑む音が聞こえた。

「今回の事件で古谷先輩に咎められるべき事は無かったはずです、報いを受けるのは私なのに」

「高磯の原稿の校正作業で疲れてさ。普通に誤字もしてたじゃないか後輩よ」

「いまボケないで下さいよ!」静かながらもその声は焦りが伝わってくる。そう分かっているのに古谷は異様に落ち着いていた。

「昔から思ってたことなんだが、高磯の小説に僕のは敵わない。昔のよしみで書き物の仕事をさせてもらってるけど、果たして読者にとって喜ばれているやら分からない」

「理屈、通ってないです」

「小説を書くことが手段にすぎない、っていうのは正しいと思う。僕自身も幽霊騒動が無ければこんなまどろっこしい方法は取らなかった」

「……私の小説も、古谷先輩の小説も不純な動機で書いてるものだった、だとしたら純粋な動機で書くっていうのは何なんです」確かめるような高磯のトーンは暗く重い。

「案外烏丸サンはストレートに動機に沿ってるかも。完結させることが目的、みたいな部分はあるし」

「古谷先輩が不純な動機だからって、書くのをやめる動機になりません」

「これから、さ。高磯はもう一度書くか?」

「………………どうしましょう、か」思わず向けられた質問に高磯は黙りこむ。

「やるべき手段は達成したんだろ? 僕もそういう状態でさ」

 双方共に沈黙する。じゃあ、と言って切ったのは古谷の方だった。

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