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タイトルは「小説の書き方」  作者: ドライパイン
10 自分たちはどうして
177/191

1 入院先のベッドの上で

 翌日、思ったより深手を負った古谷は近くの救急病院で入院していた。

「入院先の病人に持ってくるお見舞いの果物がドリアンですか」

「間違ってたね、病人じゃなくて怪我人だったわ」竹内は飄々と言ってのける。

「重要なのはそこじゃないんですけど」洗濯バサミを鼻につける古谷。ちなみに竹内の鞄の中に有ったものである。そういう用意は要らないというのに、と古谷は思う。

「大体何処で買ったんです、そこらの八百屋さんには売ってないでしょうに」

「マレーシア。皮の内側に残ったニオイでも結構残り香がキツかったけどね」

「どうやって脱臭したんですか……」病室が今一人だけで本当に助かったと心から思う古谷。

「塩水でのんびりと洗ってね、屋台の人が一緒に売ってくれたからその場で洗わせてもらったの」

「失礼なことを言いますけど、たまに先輩はアホなんじゃないかって思うことが有ります」ドリアンの一切れを口にしながらも古谷は呆れた表情を崩せない。

「アホと何とかは紙一重っていうじゃん」

「普通使い方逆なんですよ」

「……古谷君、事態の収拾お疲れ様」

「僕はカッターで切られただけですが。どちらかというと竹内先輩が上に掛けあってくれなかったら決着つきませんでしたし」

「香波ちゃんを止めたいって言い出したのは古谷君でしょ? 偶然辰巳君と一緒の所に居ただけの私が動くには後輩の救援要請が必要だったのよ」

「高磯の原稿を書き換えることは成功しました。最終的に彼女も受け入れて偽装済みの原稿を提出してくれたみたいです、例のOLの人については僕の知るところでは有りません」

「普通犯人の方が気になってしまうと思うんだけどね、それどころじゃないってとこかしら」

「……あれ以来、と言ってもまだ一日しか経ってないですが。高磯と連絡がとれていないです」

「私の方でも探すわ、辰巳君も原稿の変更でバタバタしてるみたいだけど」

「振り回してきたのは結局僕らの方でしたね」唇をやや引き攣らせて言う古谷。

「正しかったか、不安かしら」

 病室の窓の方に一瞬目を逸らして古谷は考え込んだ。

「一日中悩んでました、はい」

 そうねえ、と前置きしつつ竹内が返答する。

「私は原稿の差し替えが正しかったと思うわ、少なくとも香波ちゃんが傷つける側に回らずに済んだんだから」

「アイツの思いを踏みにじってでも、ですか」

 少し語気が強まった古谷を宥めるように手を出して竹内が答える。

「あの子より私達は1年2年先輩でしょ? 先輩として後輩の暴走は止めなきゃ」

「もう干渉する年じゃないでしょう、子離れ出来ない親じゃないんですから」

「前々から思ってたけど、古谷君例えが下手よね」

「ほっといて下さい」思わぬ批評で古谷はそっぽを向きたくなった。

「長々と居るわけにもいかないし、ここで退出させていただきますわ」ケラケラ笑いを隠さないまま、軽い調子で病室を去る。

「ゆっくり寝かせて下さい」古谷はさっさとベッドに横たわり目を閉じる。

 一人きりになり、腕組みをしたまま唸る怪我人がそこにいた。

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