P 果たして真意か?
「古谷君、君は高磯さんの小説と本当に入れ替えたのかい」
「入れ替えたさ、正確に言えば今辰巳さんが持っているのは書き換えた後の原稿なんだけど」
「本物の原稿は何処に」
「……駅で遺失物として預かられてる、一部分が破損してるように見えるがそれは僕の原稿をちぎって混ぜたものだ」
「これを原稿として提出しろと? 高磯さんの復讐にこんな手段は全く効きやしない」
「それを阻止するためにわざわざやったんだ、面倒だから今からそっちに行く」
烏丸達が女性を追い詰めた袋小路と、古谷達が歩いていた道は案外近かった。ものの数分後、2人は原稿を持った辰巳達の所へ辿り着く。
「小説をすり替えた、と言ったよな」
「既に執筆データそのものは僕達自身の手に有る。書き換えた後の原稿が今持っている方で、元の原稿は駅に届けられているはず」
「……古谷先輩は、どの段階で私の小説について気がついたんですか」追ってきた高磯がまず問いかける。
「辰巳さんが竹内先輩の名前を出したんだが、そのことについて実際に確かめてみた。確かに辰巳さんの所属しているグループと同じとこに所属していた」
「……裏切りでもしたのか?」ツカと音を立て、近寄り辰巳が尋ねる。
「高磯のいじめに関わった加害者グループと、そのグループに危害を加えられたことの有る被害者グループ。別に僕らはどちらについている訳ではない。そもそもそんなグループ分けの存在を知ったのも高磯ですら辰巳さんと会ってからだ」
「君らの目的は? 騒動に乗っかって自分の小説を目立たせたい訳でもあるまいに」
「日和見決め込んだわけではないです、ただ単に平和的解決を望んだんですよ」
「高磯さんはグループの存在を知らなかった、っていうことは知らぬ間に事態が大きくなってたと?」烏丸が尋ねる。
「水果さんが妹さんと来た数日後でしょうか。お兄さんと接触したのはその頃です、小説の内容を尋ねた人同士が連絡取り合っていたのも知らなかったもので」表情を崩さない高磯。しかし烏丸は疑問を投げかける。
「そんな筈は有りえません。想定していないとしたら想定が甘すぎますし、グループが形作られるとしたら必ずキッカケが有る。自分の小説を知ってほしいという一言でも添えれば素早く連絡網が作られるでしょうし」
「高磯が計画的にグループを作ったかどうかは余り重要なことではない」古谷が携帯を取り出して何処かに電話を掛ける。
「竹内か」辰巳の問いかけに無言で頷く古谷。