K 問いかけは返答なし
「……高磯、一つ聞いてもいいか」落し物の原稿を確認しに駅へ往く時に古谷は高磯に尋ねた。
「なんでしょうか」先程動揺した素振りを見せた高磯も、数分して落ち着いた様子を見せている。
「僕自身が思うにあの小説を世に出すには別の方法があったと思うんだ。自費出版でも、今高磯が受け持っている出版社を通してでも。わざわざ公募なんて確率の低い方法を選んだのは何でだ」
「もう一度、昔古谷先輩が受賞した賞を私も手に入れたいと思ったんですよ」
「出版社の名義が変わってもか、第一高磯はもう僕より凄い賞取ってたろ」
高磯は銀賞、古谷はその前の年に銅賞であった。
「……銅、銀と来れば次は金賞でしょう?」高磯の言い訳は随分と苦しい、そう古谷は感じた。
「本当の目的は受賞じゃない、それどころか作品を世に出すことですら無い」
今度こそ、高磯は追い詰められたような表情をする。
「高磯が知ってるかどうかは分からないが、小説を投稿することそのものに異様に警戒がなされていた。小説を抹消しようとする人物が確実に存在するかのように」
元々表情が硬い高磯だが、今の彼女は瞬き一つもせずお面を被ったかのように凍っている。
「高磯が投稿しようとした小説は出版社内の特定の人物、あるいは人物達を攻撃する為のものだ」
歩きながら会話する2人。否、会話というにはもう一方からの返答が存在しない。