I 訪問
「会社内部の人間のうち誰が実際に原稿を捨てるか、っていうのは特定できるの?」
「正直な所難しい。会社全体と言わないまでも受付の人間が結託すれば存在ごと抹消されかねない」
「わざと2人に原稿を提出させたのは何故だい?」
「例年数日に渡って受付する筈が、今年だけは1日にスケジュールを圧縮されている。提出の延長が不可能であることと、古谷君の協力で高磯さんの原稿は守り抜ける事がほぼ確定している」
「……古谷君の原稿は?」尋ねたのは、烏丸が意外にも思う叔父だった。
「俺達の目的はあくまで高磯さんの原稿だけだ。それ以上の協力を仰ぐことは出来なかった」
「分かったわ、なんとかしましょう」やや悩んで、しかし踏ん切りを付けるように烏丸が言う。
「文句を言わないのか」
「お兄ちゃんだけなら協力してくれるよね?」
少しの沈黙の後、辰巳が迷ったかのような声で返す。
「個人的にならな、別に禁止されてるわけではないし」
「ワシはどうしていたら良いかのう」困ったように会話に入ってくる叔父。
「急に老けこんだかのような言葉使いをしないでください、通信拠点は大事ですよ」
「水果ちゃんが会社に入って、辰巳が何処か別の場所で活動。……暇かもしれない」
「叔父さんは何かあったら交通手段をお願いします」苦笑いと共に辰巳が答えた。