21 (無賃労働)*(無銭飲食)
今日の分の小説を書きながら、色々なことを思い出す烏丸。
よくよく考えるとバイト代を頂いていないことに気がつく。今度喫茶店に行った時に多めに注文させてもらうとする、と彼女は自己完結することにした。それより考えておきたいことが、元文藝部員の2人の小説を書き始める動機。
自分の兄が何らかの形で関わっている事が確定している。しかも物事を悪化させる可能性が高い。なぜ古谷が中断したのか、その理由を高磯が知らないのは一体何故なのか。このままお互いに同じ賞に応募することで2人の間にわだかまりが無ければ良いが、一度友人として相談した相手だ。こうして自体を放っておいて大丈夫なのか、と不安な思いをかき消すことが出来ないでいた。
携帯電話が振動する。バイトもあって、マナーモードを戻していなかった。
『烏丸辰巳:着信』
「こちら烏丸水果。西方最大離角には異常なし」
「それ何処で聞いたんだ、大学で地学の講義でもとってたか」
「古谷君と高磯さんの話。多少タネが割れてるんだから、少しは話してくれてもいいんじゃないかしら」
「どちらかと言えば、今から此方が話そうと思ってたところなんだ」
「……どういう風の吹き回しで」
「磁気嵐辺りかもしれんな」
「その心は」
「特に考えてなかったんだけど」