13 (模倣)*(遺志)
再び烏丸自身の動機に話題が移る。
「じゃあ、私の動機は『わからない』ってことですかね。おじいちゃんが書いていた理由すら分からないなら自分の理由をはっきり説明なんてできません」
「……そのままで、烏丸サンは良いのか?」古谷は既に2杯目のコーヒーに口をつけている。
「よくわからない、というのが正直な所です。それを明確にしたいのかも」烏丸はまだ1杯目。甘いものが古谷ほど好きなわけではないので一気に飲めなかった。
「おじいちゃんの模倣をしてる、ってことなんですかね」ポツリと呟くように烏丸は言う。
「模倣は単なるマネなんだ、烏丸サンのはその」上手く表現する言葉が出てこないのか、古谷は少し黙る。
「あはは、有難うございます」すくめた肩を降ろし、烏丸は笑顔を作った。
「コッチが言う事でも無いかもしれないけど、気楽にやって良いんじゃないかな」
「気楽に、ですか」考えるかのように、視線が上を向く烏丸。
「そうだな」コトリ、と古谷はカップをテーブルに置く。
「古谷さんも気楽に、ですか?」
古谷は返答出来なかった。むう、と何とも言えない声を漏らして返事の代わりにする。
「でも、読んでくれている人がいて嬉しいっていうのはありますよ。古谷さん然り、ネット上の人然り」
「そりゃ、なによりで」
「だけど読まれて嬉しい反面、もし自分の書いた小説が読まれない事を考えます」
「ふむ」カップを再び持ち上げ、口にする。目を閉じて考え込みながら。
「おじいちゃんの小説のように。それを何故書き続けたのか。私だったら書き続けることが出来るかと」
「マラソンじゃないし、我慢比べでもないんだが」いや今缶詰状態なんだけどね、とボヤく古谷。やや冷めたコーヒーを一気に飲み込み始める。
「古谷さんは何故ミステリ小説を書いているんですか?」
古谷の喉の動きが止まる。