37 Why didn't it?
「お兄さんの話と別に、もう一つ聞きたいことが有るの」
「古谷先輩、元気にしてますか」
「故郷のオカンからのビデオレターかしら」
「いやそういうのではなく」
「以前会ったんじゃなかったかしら? その時の様子と多分一緒よ」
「……烏丸さんも、小説を書かれているんですよね」確認するかのように高磯が問いかける。
「余り堂々と見せられるものかは疑問ですけど」一応の予防線、何しろ相手は何年も書いているのだ。
「古谷先輩は、小説を書いているんでしょうか」
「一時期色々と迷走していたみたいだけど、推理小説を書いてるわ」自分に合わせてくれたのかもしれない、と心の中で弁護しておく烏丸。
「古谷先輩は以前、小説を書くことを止めてしまったんです」
「……書けなくなった理由に思い当たりでも?」初めて知った事実。烏丸が古谷と出会った時には、単に彼が本好きで書店に通っていると思っていた。それが高じて、執筆を開始したものだと。
「思い当たりは、無いです」押し黙った後高磯が言う。本当に、と尋ねる訳にもいかず烏丸は返答に窮する。
「今度、聞いてみようか」提案だけ、1つ出しておく。
「いいえ、それについては結構です。聞きたいときは自分から言います」しかし、やけに丁寧に反対された。古谷が高校を卒業してから既に3年が経過していたことを烏丸は考える。忘れたというわけでは無いだろうが、彼も学部の関係上忙しい身だ。唐突に嘗てやめた執筆活動を始めるのも不思議であると考える。
「ごめんね、良い提案が私にはちょっと出せない」質問された以上何らかの結論を出したかったのだが、と烏丸は思う。
「いえ、こればっかりは私自身の問題なので」落ち込んだ様子だが、高磯はそう返した。
何故古谷は小説を書くことをやめたのだろう。烏丸は疑問に思うばかりであった。