17 3歩も歩かず物忘れ
「ねーちゃん達、何を買いに行ったんでしたっけ……」別のパズルゲームに移ってから、勝率が比較的均衡してきた高磯と三菜。
「水菜と鶏団子だったような気がするわ」さらりと勘違いしている高磯。ゲーム中は口が回らないタイプらしい。
「あれ、でも今朝鶏団子買った覚えが有るんですけど」
「えー……まあでも、水菜は買ってないから大丈夫よきっと」
「流石に連絡しましょうか」携帯を取ろうと一瞬立ち上がるも、ゲーム中で再び座る三菜。
「そうね」そもそも動こうとしなかった高磯。
沈黙、互いに動けない。室内に響くのはゲームの音楽とキー操作の音だけ。
「これ決着着くまでメール打てないんじゃないですか」苦笑いのような笑みとともに、三菜が呟いた。
「知ってるかしら、小説家は負けず嫌いが多いのよ」高磯の方はというと、なんとも無いような顔で戦いを続ける。
「えっ、マジですか」姉と古谷を思い浮かべる三菜。
「私の知る所に限ればだけど」
「……私にも素質有りますかね」
「素質っていうか、特徴っていうか。文藝部には変人が多かったのよ」
「高磯さんが変人っていうからには相当なんでしょうね」
「私基準でヤバイって、私は初対面で何処まで変人扱いされてるのかしら」
「部屋、実は押入れに沢山物が入ってますよね?」
「何故それをっ」
「コントロール乱れましたね」
くっというややくぐもった声で高磯が画面に食い入る。負けじと「素質」を見せつけてゆく三菜。
そしてメールは打たれないまま忘れられてしまう。