間-1 メールを受ける
休日とはいえ、どこかに行くような用事は作っていない古谷。
小説が進んでいなかったのを思い出し、これを機に進めておこうとその日の朝寝ぼけつつ考えていた。
朝とはいってももう午前11時。少し年季の入りつつ有るトースターで食パンを焼き、パソコンを起動する。
その時、古谷の携帯から着信音がなる。眠たくて携帯を取るのもやや億劫だったが仕方なく取る。
……なんと、仲林からメールだった。普段あまり連絡をしない後輩だったので、何かの用事があったのかなと古谷は懐疑的になる。
『お久しぶりでーす! 古谷先輩のご友人、変わってますね!』
「誰のことだよ」思わず液晶に向かってぼやく。
変わっている友人、つまり変人。誰がいたかなと暫し目を閉じ思い出そうとする。
元々文藝部の人達は変わり者が多かったし、大学で入っているサークルも言ってしまえば個人の味が強い。自分の自転車にエンジン積もうとか言い出して自転車を溶かした強者がいたり、茶の湯に一番合うスナック菓子は何だと本気で研究して後輩に絞め技喰らった同期もいるし。
『スマン、誰のことかサッパリだ』古谷はさっさと白旗を揚げるに限る、と早々に判断した。
再び原稿の執筆。……だが、変人連中の事を考えたおかげで色々と考えこむ。
類は友を呼ぶというが、変人が周囲に多いのは自分が変人だからなのか、認めたくないぞと渋面を作る。
気が付けば、トースターのパンは炭になっていた。
無言でパンをつかみ、包丁で黒焦げの部分を削り取る古谷。ザッザッザッっという音を響かせつつ、メールの事を考える。
仲林の友人といえば高磯だが、彼女が変わり種で有ることはもう織り込み済みである。更に関わり合いが有る人物は、と絞り込んでゆけば高校生の頃の友人だろうか。
或いは、自分の友人であるということが仲林の勘違いである説を考える。暫くして、その考えは意味が無いだろと頭を振る。そもそも自分の友人であることを語る必要もないし、騙る必要も無いからだ。
「大体変人と出会うことが多すぎなんだよちくしょー」誰にともなく古谷は怨嗟を口にする。頭によぎっているのは謎めいた依頼者の事。高磯が変なことに関わってるか直接尋ねるわけに行かないし、烏丸辰巳に詳しく尋問することも出来ない。
ようやくパンの小麦色の部分が見えてきた。ココナツ油を敷いて、やや薄くなったパンを平らげる。
「……あ、ダメだ凄い眠い」テーブルに突っ伏す。