魔王と姫の会合
姫宮有紗はハーフだ。
その美少女な見た目も相まって周りの注目も非常に強く集めている。
モンスター達から身を護るためにバリアーが張られた都市は人口が過密になっており、
男性からの欲情した下卑た視線や、女性からの羨望や嫉妬の眼差しをよく感じている。
まぁ、彼女の場合そこら辺の視線や感情には鈍いため、彼女的には実際程の嫌悪感を感じていることはない。
というか、慣れもあるのだろう。
美少女ゆえの悩みというものは彼女にもある。
彼女は先祖であるアーサー・ペンドラゴンのような戦士でもない普通の高等学生だ。
但し、家柄に関しては全く持って普通とは言い難いが。
彼女の悩みはやたらナンパされることだ。
彼女の明るい表情が美人特有の冷たさを感じさせない為に男が近づきたがるのだろう。
不細工には無い悩みだ。
だが、不細工に悩みと違って美人の悩みには危険が付きまとうことも多い。
彼女が友人とはどうしても予定が合わず今日はたまたま一人で帰っていた時のことだった。
いつものようにナンパされては断ったりしてそれが申しわけなかったり面倒くさかったりで早足で帰っていた。
そのせいかつい、曲がり角から走ってきた男たちの集団にぶつかってしまった。
男たちは当初かつあげをできそうな、弱そうな男に金をせびっていた。
しかし、金をせびられた少年は逃げ出した。
チクられるのもムカつくし、いっぺんしめとくか、という考えで追い掛けていたが、
そのせいで誰かにぶつかってしまった。
そいつもムカつくのでそいつからも慰謝料を貰おうかと思ってみると、
予想もしていなかった上玉だった。
あんなザコの金よりも、この女の方がよくね?
男たちの心は一つになった。
「おいおい、いてーなぁ。」
男の一人が有紗にそう云いがかった。
どう見ても痛そうなのは跳ね飛ばされた有紗の方であるが男はそんなことは気にしない。
「すっすみません。」
有紗は男の威圧感に押されてつい謝ってしまった。
それが尚更男を調子づかせた。
「すみませんで全部すむわけねーだろが、どうお詫びしてくれんだ?おい。」
男たちはいつものように高圧的に言いがかりをつけて丸め込み、
自分たちの言い分に引き込んでは後戻りできないようにしようと思っていた。
彼らがそうやって食い物にしてきた女たちは多い。
周囲には何人かいるにはいたが、皆自分の身が恐いのか誰も止めようとはしない。
「取り敢えず、ここで話をするのもなんだし、アッチの車の中に乗れや。」
そういって、先程から脅しをかけている男が有紗の手を引こうとしたとき、
有紗は男たちの後ろに見た。
神域の美を。
美しいという言葉さえそれを現すには至らない。
その顔に時折風が銀糸を被らせる。
遺伝子選別を強行した扶桑帝国民から見てもなお遥かに長い美脚。
有紗がこの国では非常に珍しいハーフなら、
その女性は完全に外国の人だった。
見物人も今まさに少女が悪人に連れていかれようとしているのに、
そちらに目が釘付けだった。
周囲の様子に気が付いた男たちの一人が背後に振り向く。
「……おっおい。」
うまく言葉が出ない。
それでもその男の様子を見て他の男たちも振り向く。
そこにはヒトが無しえないほどの美が存在した。
その人の容を持った美が告げる。
「消えなさい。」
男たちは何を言われたか最初判らずにきょとんとしていた。
だが、鈴のなるような美しい声を聞き逃す程ではない。
確かに聞きほれてしまうほどの音のような声であったが、
脳が再開を始めればその意味を理解し始めた。
男たちは思った。この生意気な女も連れ去ってお楽しみをしようと。
「おい、アンタ―――――」
「聞こえなかったのでしょうか?
今すぐ消えなさい。そう言っているの。」
男たちは魂が氷漬けにされるような心地を感じた。
生物としての格が違った。
お前たちなど指先一つでいつでもダウン、いや、殺すことなど容易いのだと。
そう言われたわけでないのに感じ取ってしまった。
「なっな、ひぃぃぃ。」
「ちょっ、待てよぉ。」
「何逃げてんだよ、待てってばよ。」
最初に逃げ出した男に続いた男たちは何かしらの言い訳をしながら逃げていった。
神域の美を持つ女性は有紗に向かって靴の音を響かせながら真っすぐ近づいてきた。
女性はしゃがみこんだ有紗に向かって屈みこむように視線を下げた。
有紗はその雰囲気に気圧されながらも、口を開いた。言わなければならない。
「あっ、ありがとうございます。」
親切を受けたら感謝の意を示すのは扶桑の文化だ。
しかしそれは扶桑だけの文化でもなく、ブリタニアにおいても通用する文化だった。
ブリタニアから海を越えてきた女性は有紗に微笑みながら告げる。
「初めまして姫宮有紗ちゃん。
綺麗な目をしていますわね。
貴女の事は―――――――――――――わたくしが護りますわ。」
あっあれ、私女の子にドキドキしちゃってるよ。どうしよう。
……っていうかあの人はどうして私の名前を…?
っていつの間にかいなくなってる?あれ?今さっきまでいたはずなのに?