PROLOGUE 序章5
二人は森の中を木々を掻い潜って逃げ、ヴィネガロンはそれらの障害を粉砕しながら突き進む。
とはいえ、突進で木々を破壊するほどの威力は無く、鋏による切断破壊が前提になって来る。
物を避けて進むのと、破壊してから進むのでは明らかに作業量に差があり、
ヴィネガロンが昆虫種特有の無機質且つ無駄のない素早い動きで迫ってきたとしても、
まだ若干だけガリたちに分があった。
時折、ヴィネガロンから距離を伸ばしたり、逆に距離を詰められながらガリとアンリの逃亡は続いた。
途中岩がゴツゴツした小さな渓谷のようなところに入った。此処を超えてまた森に出て、
またもう少し逃亡を続ければ今度は小国に辿り着く。
だが、流石にモンスターを連れたまま国に戻るわけにはいかない。
「アンリ、仕掛けるぞ。」
「判ったよ。」
アンリは軽く自分の身長の3倍以上は跳躍すると、せりあがった岩肌に足を掛け、
足を岩の盛り上がりの付け根に当て、
「天海通衝ッ!!」
巨大な岩の塊の根元を砕くことによって崩落させた。
その下にいるのは――――ヴィネガロンだ。
ヴィネガロンの背に大岩が圧し掛かる。
その背の装甲は耐え切れず、ヴィネガロンは背をひしゃげ、中身をだし、
その地に縫いとめられた。
それでも背の岩を振り払い、とりあえずはねぐらに帰ろうとする。
だが、二人がそれを見逃すわけはない。
岩を振り払い、その大きな傷を負った背が露わになった時、
空中から先程跳躍したアンリの重力による速度をどうやってか遥かに超えた急降下による、
追撃が待っていた。
「破っっ!!!!!」
衝撃がヴィネガロンの内部を貫通する。
ほぼ即死しかけたヴィネガロンだったが、まだなんとか存命であった。
朦朧とする目の前には砕け散った木々と、岩の破片。
既にヴィネガロンとしての最低限の成長は済ませてある。後は更正決定要素だけだ。
木々と岩。そのどちらかを食すことでアシッドヴィネガロンか、ロックヴィネガロンに進化が可能だった。
ヴィネガロンが選択したのは岩だった。進化だけである程度の傷は回復することもできる上、
岩石で身体を構成するロックヴィネガロンなら岩を喰らいその物質を持って、
傷口も再生可能だ。
アンリとガリは致命傷を負ったヴィネガロンに追撃を掛けようとしていたが遅かった。
しかし、岩を喰らいロックヴィネガロンに進化した直後――――――
「僕がさっき『岩を砕いたこと』見てなかったの?――天海通衝ッ!!!!!」
いきなりその片方の鋏に罅が入った。
更にそこにちょっと空気化してたガリがその割れ目に剣を滑り込ませ、
「閃理苞翔」
その鋏の日々から閃光があふれ出し、鋏を砕き切った。
ヴィネガロンは鋏が無くなった前脚を眺めると、
流石に逃げに徹すれば生き延びれるし、
今回は分が悪いと考えたのかロックヴィネガロンは去っていった。
そうして二人は小国に戻った。
「じゃあね。ガリバー。今日は楽しかったよ。」
「あぁ、そうだな。」
「これで二人して不老の化け物に為れたしね。」
「あぁ、そうだな…。」
ガリはアンリと別れてから今まで考えないよう、思い出さないようにしてきたアンリの狂気が脳裏に甦ってきた。
それでもそのことをもう一度ガリは頭の隅に追いやることにした。
結果―――――――――――――小国は滅び、人類にして人類の敵対者たちの首魁が誕生することになった。
そのことは、永遠にガリ・ガリクントスイカ・バーの罪となるのだ。
だが、もしかしたらその罪はこの時に産まれたわけでも冒険の時に産まれたわけでもなく、
アンリ・ファーボル・ツイッターが命の恐怖に脅えていたことを親友であるにもかかわらず、
気が付くことができなかった。ずっと最初の幼き時から生まれていたのかも知れない。