PROLOGUE 序章3
途中、丸呑みした岩を吐き出してくる大蛇に追われたり、
サソリのようで違うモンスターに襲われたりしたが彼らはうまく対処してさらに奥に入っていった。
森の奥を進んでいくと正面を横切る川が流れていた。
川の途中に小さな島があった。川の中の小さな島の向こうからは飛び石がいくつもあったが、
ガリたちの方から川の中の小さな島までには足場となるような石は存在していなかった。
「おい、なんてことだ。」
「いきどまり、だね。………ガリバーは。」
「……えっ?」
「じゃ、お先に。」
アンリは水面の『波』を掴んで自らの氣功を足裏から解放し、
水面を飛ぶように駆けていく。
途中何匹ものダーツウグイが自らのダーツにしては大きいその身体ごと鋭い口先で飛び掛かって来たが、
アンリの速度が速いのか、それとも見切っているのか全て躱しきっていた。
しかし、もう少しで島に着くという手前の最期の跳躍で、
オタマという、両生類の幼体のモンスターが進路を阻むように飛び上がってきた。
直系1mはあるような球体のモンスターは、獲物が自分から突っ込んでくることがわかると、
その口を急に自分の身体と同じくらいにまで開いた。
よく奥の方を見ると、かすかに臼歯のようなものも見える。
「アンリッ!!」
「大丈夫。」
アンリは空中で更にほんの軽く浮き上がると、オタマの頭上を軽く押さえつけるようにしたまま身体を跳ね上げた。
ちょうどオタマの上で逆立ちをするようにアンリの身体が成った瞬間、
「天海――――通衝ッッ!!!」
一瞬の停滞の後オタマの下部が内側から外側に伸びあがり、オタマは水面に叩きつけられた。
数秒後、気絶したオタマが水中から浮かび上がっては流れていった。
流れていったオタマは水中から飛び出してきた巨大な魚に水底に引きずり込まれていった。
「凄―――。」
「凄い、でしょ?通衝の空中バージョンさ、水中でも使えるけどね。」
そう言いながらアンリは反動を使ってハンドスプリングの要領で島の上に、ふにょん、と着地した。
この様子だけを見ていればとても彼を引きこもりと思えるものはいまい。
「さっ―――――――――次は君の番だよ、ガリ。」
しかしガリには水面を走る技術も無ければ川幅を飛び越える跳躍力も飛行術もない。
「さて、どうしたもの――――――ああ、アレがいい。」
ガリは唐突に少し上流にある大木に近づいて、
「閃理、苞翔ッ!!(フラッシュバーン)」
その、根元から切り裂いた。
切裂かれた大木は川を流れていく。
流れていく大木にガリは並走し飛び乗った。
流木に飛び乗ったガリは島に向かって再度跳躍する。
跳躍の最高点で島に向かって剣を投射し、地面に突き刺さった剣の柄と鍔に対し鞭を伸ばし巻きつけ、
一気に引っ張った。
当初の跳躍の勢いからは届かないはずであった距離を島に体を引き寄せることによって稼ぎ出し、
ガリは島に向かって跳んでいく。
しかし、あと少しと言うところで剣が地面から抜けた。
剣はガリに向かって飛んでいく。
だがガリは慌てることなく鞭を持っていない空いた手で剣を掴み鞘におさめ、
島に向かって手を伸ばした。
島の岸にはアンリが待ち構えており、笑ってその手を掴むと引き寄せ受け止めた。
心なしか足場が柔らかい気もするが、その前にまずは言うことがある。
「信じてたぜ、アンリ。」
「どうも。」
二人は小さな川中島の上から先に続く足場になりそうな飛び石の向こうを見た。
飛び石を使えば幾つもいけそうなところがあり、対岸にも渡れそうであったが、
上流方向の飛び石の向こうには滝があり、ここ最近雨が少ないためか滝の隙間から、
その向こうにくぼみらしきものがあるのを発見した。
「行ってみるか。」
「ここまで来たら、ね。」
二人は滝のある方の飛び石を渡っていくことにした。
飛び石を4回か5回飛び乗った時、
突如巨大な魚が飛び出してきた。
ビッグフィッシュ RANK F+
そのまんまの名前だが、巨大な魚だ。
人間を容易に頭から丸呑みできる程度には大きい。
口径だけで1mはある。
そんな巨大な魚がガリを飲み込まんと飛び上がってきたのだ。
身体が大きいというのはそれだけで脅威になりうるのだ。
身体の大きさに伴い相手を飲み込む口も大きくなり、
体重も増え、力も強くなる。
ガリは咄嗟に身を低くすることで躱したが、
ビッグフィッシュの追撃は止まらなかった。
今度は反対側から低めのジャンプで飛び出してきたのだ。
「こっちだ。」
ガリはアンリを誘い、もといた島まで引き返す。
飛び石のような小さな足場では不利だと感じたのかもしれない。
飛び石を一つずつ戻っていくと、途中域には無かったような飛び石があった。
その飛び石に飛び乗ろうとする寸前、
「ガリバーッ、そいつは駄目だっ。高く飛び越えろっっ!!!」
何の事か判断する前に咄嗟にガリバーは高く飛び上がった。
その直後すぐ下をビッグフィッシュが通り抜けた。
飛び石かと勘違いしていたものは先回りして待ち構えていたビッグフィッシュだったのだ。
かくしてその後、何とか島までたどり着いた二人。
小さな島の周りをグルグルとビッグフィッシュは泳ぎながら待ち構えている。
「様子を見よう。」
「そうだよな。流石に水中にいる奴に仕掛けに行くのはな。」
二人はビッグフィッシュが去るのを待つことにした。
だがそれは、――――悪手だった。
突如周囲を回るのみであったビッグフィッシュは二人に向かって大きく飛び上がってきた。
咄嗟に躱す二人。二人の頭の中には地上に打ち上げられたビッグフィッシュがもがく姿があった。
しかし――――――――
「マジかよ。」
飛び上がったビッグフィッシュは島を突き破り、下に潜ったのだ。
二人の足場であった島は皮の表面に浮いている浮島だったのであった。
かなりの厚みと密度があったために、人間ぐらいが飛び乗る程度ではふにょんと弾みを感じる程度であったが、
流石に勢いのついた重量物のほぼ垂直落下は受け止められなかったようだ。
強烈な水しぶきが彼らが避けた場所に空いた穴から上がる。
再びビッグフィッシュは島の周りをぐるぐるとまわっていた。
二人が警戒していると再びビッグフィッシュは飛び上がった。
そして再び島に向かってダイブしてくる。
再び二人は躱し、浮島に穴があけられる。
しかしただ二人は避けたわけではなかった。
「痺れろ。」
浮島にビッグフィッシュが激突した瞬間ガリの電撃鞭がビッグフィッシュを捕えた。
「濡れた体にはよく聞くだろう?」
ビッグフィッシュは電撃で気絶させられた。
その際、激しく痙攣したため、無駄な動きによって穴の通過が出来ず、
頭こそ水中に潜っているが浮島に体が残ってしまった。
止めを刺さんとガリは剣を振りかぶった。
「閃理苞―――――――――」
その時、グイッとビッグフィッシュが何者かに水中に引き込まれていった。
何が起こった。そうガリが思っていた時、
「こっちを見てくれ。」
ガリから少し離れた浮島の岸でアンリが言った。
「どうし――――――凄いでかいな。」
浮島の下を潜っていくビッグフィッシュよりも更に巨大な魚影があった。
ジャンボフィッシュ。 RANK E+
ビッグフィッシュの同系統上位種族である。
「同族食い……。」
「さして珍しい事ではないさ。自らが生きるためには時として己の種でさえも危害対象になる。同じさ。
……………人間とね。」
「…アンリ?」
また、―――違和感を、感じた。
「いやガリバー。君があんまりにも同族食いに対し驚いたようにするからさ。蟷螂も蜘蛛も共食いするだろう?」
「あぁ、そういうことか。いや、同系統でも共食いするのは知っていたけど、いざみるとなんか、なぁ。」
「ふはは、君は繊細だな。処女のようだ。」
「黙れ童貞。」
「童貞を馬鹿にするのか?…これだからリア充は。モテる方の公爵家はやっぱり違うね。
…まぁいいさ。僕は童貞であることを恥じるつもりは無い。
童貞であるということも今の僕を形作る事実の一つだ。」
「……不覚にもこの童貞をカッコいいと思ってしまった。」
「まぁその童貞の魅力を女性たちが理解してはくれないから、
僕は今まさに童貞であり続けているというわけなのだけどね。
―さぁ、先に行こう。限られた時を生きる人類は常に進み続けるしかない。
まぁ寿命だけを伸ばす方法なら幾つかはあるのだけどね。
永き時を常に輝き続けていこうとするのはこの星に産まれた生き物たるヒトには過ぎたる望みさ。
君にも、僕にも、時間は無限にあるわけじゃないんだ。
強者に諂う生き方か、強者になる生き方かを選ぶしかない。
そのどちらを選んでも命の保証はどこにもない。ヒトでは真の意味で覇者にはなれないんだ。
それとも、ヒトを…棄ててみるかい?」
また、まただ。――――――――アンリから何かが違和感を発している。
これを感じ取ることができるのは俺が術式情報の残滓を感じ取りことができるバー家の生まれであるためだ。
我が国が誇る2大公爵家が引き継いできた異能の片割れ、
『小説(READ)を読(THE AIR)もう』が何かの警告を発している。
思い出せ俺、さっきの違和感はなんだ、以前は何処で感じた、感覚を研ぎ澄ませ、
記憶を辿れ、情報を羅列しろ。
……………くそっ、たどり着けない。
ツイッター公爵家の異能『小説家(WANNA BE)になろう』の特殊すぎる術式情報による誤読か?
…いやそれだけじゃない。だとしたらその併用?
アイツの異能によってアイツ自身が染まることの危険性はアイツだって理解している。
自ら望んで――?ありえない。何をだ、何の為に、何が―――――――」
「ガリバー?」
「っっあぁ、いや、何でもない。」
「ふぅん、そうか…。ならいいや。」
――――この時、感じた違和感にしっかりと向き合っていれば、世界は歪むことは無かったかもしれない。
俺は、選択肢を誤った。
そう、ガリは後悔し続けることになる。