PROLOGUE 序章2
小国が崩壊する数週間前
二人の青年が冒険をしていた。
片方は利発そうな美丈夫、もう片方は根暗そうな眼鏡をした青年だった。
利発そうな方は見ての通りだが、もう片方の陰気臭そうな男もこう見えて特級の冒険者でもあった。
といっても実は二人ともこの国の2大貴族の頭首と嫡子であり、
冒険をするのは実は趣味だ。
その上、大体誘いをかけるのは普段は引きこもって本を読んだり研究に明け暮れている根暗男の方だというのだから面白い。
っというか根暗男の研究材料の調達が目的の大半であったりするわけだが。
今回も名目はそうなのだが、実際には父親である先代の公爵が死んで、
悲しむ間もなく執務に没頭している親友を外に連れ出して気を紛らわせるのが目的だった。
そんな、親友の気遣いにリア充で社交的な男は気付かないわけでもなく、
その為、特に目的の採取目標もなく二人は森の奥深くまで入っていった。
後で溜まった執務に苦しむのだろうが、それは一人で頑張って、と言う親友の無責任さにはイラッとはしなくもないが。
二人が森の奥に入ってすぐの事だった。
ある~ひ森の中、熊さんに……えっ熊さん!?
えっ!?逃げても追いかけてくる、あのっ熊さんっ!?
早速モンスターに遭遇した。
装甲灰色熊 RANK D
その鉄鋼のような胸板は生半可な攻撃を跳ね返す。動きも意外に早く、
逃げても逃げても追いかけてくる上にイアリングをくれるどころか、
こっちが命をプレゼントしてあげなければならない。
そしてその身体生み出される圧倒的膂力の前に、人類では為す術は無い。
……というのは昔の話。
今の時代人類はモンスターに対抗する様々な技術を積み上げ、
倒しえる道具や術式を持っている。
勿論旧式のライフル程度では簡単に弾かれてしまうであろう。
しかし、
根暗男アンリ・ファーボル・ツイッター公子に向かって剛腕を振り上げ、
再び振り下ろそうとした装甲灰色熊の腕は、
装甲灰色熊の背後の木を一周回って背後から巻きついたリア充男、
ガリ・ガリクントスイカ・バー公爵の電撃鞭によって縛り上げられている。
「ははんっ、どうだ。痺れてうまく力が出せないだろ。
やっぱり扶桑製の武器は凄いななっ。」
「うん、そうだね。―――通衝ッ!!」
根暗青年アンリは目の前で腕を振り上げたまま振り下ろそうともがく装甲灰色熊の鋼のような装甲に向け、
拳を突き立て、その一瞬の遅れの後、装甲灰色熊の身体がくの字に曲がった。
「やるぅ。凄ぇよ。内部破壊攻撃か、何処で学んだんだ?それ。」
「秦華の本。結構読書も馬鹿に出来ないよ?」
「それ読んだだけでできるのか…、凄いな。」
「さっきからすげぇしか言ってないよ。語彙が足りないんじゃない?公爵サマ。」
「そうだな。」
だが、一番凄いのは、内部に衝撃を通す前に、普通の拳撃の時点で装甲灰色熊の腹がへこんだ様に見えたことだ。
気のせい…だよな?
ガリは先程の一瞬の光景を見間違えだとして片づけた。うん見間違いに違いない。
だが、単純に高威力の物理攻撃を細身のアンリがヒトの身で成し遂げたことを別として尚、
――――――違和感を感じた。
一瞬、どこか不自然に微笑んだアンリの表情と、
ヒトの構造上、肉体強化術式を使わずには行えない動作を行ったアンリの術式による力場の在り方に。
他者の発生させた術式の残滓を読み取る特殊能力を先天的に持つガリが、
術式の残滓、少なくとも『通常の』術式の残滓を感じることができなかったのは、
それもきっと、―――――――――気のせいに違いない。
「底なし沼の罠っ!!」
気をすぐに取り直し、関期逸せず一時的に足場を泥沼化させる術式をガリは放つ。
後方に向けて受ける衝撃を踏みとどまる足場がぬかるんで、
そのまま尻餅をつくように倒れ、装甲灰色熊の下半身は座屈するような姿勢のまま泥沼に落ちた。
座屈の状態のままでは特に四足動物では力が入らない。
「そのまま寝ておいて。。」
装甲灰色熊に向かって駆け出したアンリはそのまま飛び上がって装甲灰色熊の顔を蹴飛ばした。
踏ん張る脚は泥の中にあり、装甲灰色熊はバランスを崩しその背を泥の中に付けた。
粘着性の泥がぴったりとその背に張り付く。
「罠解除」
ガリの術式が解け、再び泥沼の地面は固い土に戻る。
仰向けの装甲灰色熊を捕えたまま。
ガリは術式を唱えながら装甲灰色熊に飛び上がり、
腰の剣を抜くと下に向けた。
「仰向けで服従のポーズ、ってか?遅いな。」
ガリはその装甲に護られていない間接たる首筋に向け。
横に向けた剣を差し込んだ。
「閃理苞翔」
ガリの剣先から光が溢れ、切っ先が作った切り口を押し広げる様に炸裂した。
一瞬の閃光の後、ガリの前には装甲灰色熊の首が転がっていた。
「さっ、行こうぜ。」
ドロップマーカーを装甲灰色熊に突き刺すと二人はさらに奥に入っていった。