002 殲滅対象です!
「オディール、もう大丈夫かい?」
お父様が心配そうに、わたしを覗き込んできています。
「お父様?」
「ん、そうだよ。急に大きな声を出したかと思えば、仰向けに倒れるんだもの。心配しちゃったよ」
首を巡らしてみると、わたしは今、お父様の研究室にある三人掛けのソファに横になっているようです。
「?」
<検索
“敵”による直接的精神攻撃を受けました
以上>
敵?何のことでしょうか?わたしはお父様に呼ばれて、この部屋に来て、それから…
<検索
オディールに記憶の混濁が認めされます
再起動を実行しますか?>
特に機能異常は認められないので、再起動の不要を伝えるとソフィアからブルブルとした感情が伝わってきます。
「ん?何か異常があるのかい?」
ソフィアの感情を不思議そうに感じていると、お父様が話しかけて来ます。
「ソフィアから嫌な感じが伝わってきて…」
「え?ソフィアから嫌な感じ?故障?」
お父様が不思議そうに首を傾げる。
「いえ、敵から直接的精神攻撃を受けたと言っています」
「敵?」
「はい」
「何だろう?」
カサカサ
「ッ!」
何かが擦れるような音が耳に入ると、背中をゾクゾクした感覚が走り、黒い物体が飛んできた記憶が蘇り、思わずお父様に抱きつきます。
「お、お父様。何か黒い物体が私の顔の上に付いていませんか?」
「いや、付いていないけど?」
カサカサ
ビック
また音がします。体にまたゾクゾクが襲って来ました。お父様に抱き付く体が反応して、跳ね上がり硬直してしまいます。
「ん?ああ、もしかしてアレか」
お父様が見る方にわたしも目を向けてみると部屋の隅で黒い物体が動いているのが見えます。
<拒否
殲滅を希望します>
「あうう」
ソフィアとわたしは、完全に拒否反応を示します。
「|Une prison couverte de glace 《氷の牢獄》」
お父様が力ある言葉を呟くと、研究室の温度がグッと下り、キンと高い音がすると、部屋の隅にいた黒い物体が拳大の大きさに氷漬けになっています。
「ふふ、オディールも女の子だね」
お父様は、硬直して放さないわたしを抱き上げると、氷漬けした物体に近づき、徐にそれを拾い上げます。
「これが、ソフィアの“敵”かな?」
<“殲滅対象”“G”“黒い悪魔”“世界の敵”…>
「殲滅対象だそうです」
「なるほど。では、|Il peut être impressionné!《彼のものを吹き飛ばせ!》」
お父様は研究室の窓を開けると、そう呟きながら、氷を持った腕を振りかぶり外へと投げます。それはまるで吹き飛ばされるように魔物が彷徨うとお父様から教えてもらった“深い森”へと飛んで行きます。
お父様はの身長は、私の倍ほど有り、目線が高くなるので興味深い物なのですが、今のわたしの考えていることは別です。
なるほど、“黒い悪魔”あれが悪魔なのですね。そして、殲滅対象。
<肯定
見・即・滅を推奨
以上>
ソフィアもそう言っているので間違いないでしょう。
※
「クス…さてと、敵もいなくなったし、僕の話を聞いてくれるかな?」
お父様は、笑いを堪えながら左手に抱いたわたしに話しかけてきます。
「…はい」
勘違いをしていたので、笑われるのは仕方がありませんが、何故かムカムカしてきます。
<検索
憤る…腹を立てる。怒る。
以上>
どうやらわたしは、お父様に対して怒りを覚えているようです。
あの後、あの“殲滅対象”について、あれが悪魔ですかとお父様に聞いたところ、笑われてしまいました。
あんな恐ろしいのに悪魔ではなく、昆虫なのだと教えてくれました。
が、信じられません。
「あらら、まだ納得してくれないのかい、オディール」
あれは、昆虫図鑑で見た“蝶”のように綺麗ではないですし、“バッタ”みたいにかっこよくありません。
「あれは悪魔です」
「ふう、まあ確かにこの家は、人里離れた“深き森”の近くにある家だよ。でも、小規模だけど何重にも結界が貼っているから、魔物はおろか、僕の知り合いでもないかぎり悪魔だって入っくればすぐにわかるよ。まあ、おとぎ話に出てくる魔王やその側近だったら僕の手には負えないけれど」
わたしがソフィアとの情報統合のために必要な“睡眠”をする前に、お父様がお話ししてくれるおとぎ話に出てくる“魔王”。それは、わたしたちが住むこの家の建つ“深き森”を支配していると言われる存在。その存在は、この“ガルシオ”と呼ばれたこの世界で様々な種族から畏れられた存在だそうです。数え切れないほどの魔王との戦いが行われながら、未だ滅することが出来ず、何処へとも知らず消えては、現れる魔王。
なるほど、それほどの存在ならありうると、であればアレは魔王なのですね!
<しぶとさ、繁殖力共に、魔王級
以上>
なるほど、だから見・即・滅なのですね!
<肯定>
わたしとソフィアの平穏のためにも、あれを殲滅することを固く誓う。
「コホン。まあ、アレのことは置いとくとしt
「いえ、お父様!あれは魔王です!見・即・滅です!」
…見・即・滅って…まあ、オディールやソフィアにこんなに豊かな感情を植え付けるんだから、すごいんだろうけどさ」
わたしの訴えに呆れるお父様。むむ、お父様が頼りにならないとは…そうです!
「お父様!」
「ん、何だい?」
「わたしに魔法を教えて下さい!」
ん、何故そんな可哀そうにわたしを見るのですか?
わたしは世界平和のためにと思っているのに!
「はぁ、まあ、魔法を教えることは、今から話すことに繋がるから、やぶさかでは何のだけど…動機として、ゴk
「殲滅対象です!」
ブリの殲滅というのは、どうなんだろう…」
ガックリと肩を落とすお父様は、私をソファに座らせると、机の上から紙を持って私の横に座り、わたしにその紙を見せてくれます。
「…王都魔法学園での教授就任依頼ですか?」
「今さら王都に帰ろうとは思ってなかったんだけどね。彼女に会えるわけでもないし…」
お父様の顔に陰りが見えます。悲しいのか、寂しいのか判断は付きませんが、そういった感情です。
「“あの人”?」
<検索
あの人…話し手・相手以外をさす語
“あの人”を特定する情報が不足のため、個人を検索することは不可能
以上>
「いや、なんでもないよ。それでね、僕に王都の魔法学園から教鞭をとって欲しいと依頼が来たんだよ」
<検索
カルトエルム王都魔法学園…
“深き森”に隣接するカルトエルム王国にある魔法を中心とした学問を教える施設
在学期間:12歳から18歳までの6年間が通常
補足:創造主ロッドバルト=オウルが在籍していた学園
以上>
お父様の後に続く様にソフィアが説明をしてくれます。
「お父様が通っていた魔法学園ですか?」
「ん、そうだよ。それでね、オディールもその学園に通わないかい?」
「でも、わたしは生まれて3カ月程しか経っていませんが?」
先程のソフィアの説明では12歳からとなっています。
「ん、そこは問題ないよ。オディールについては、僕の恩師である学園長にすでに話してあるんだ。だから、大丈夫」
よくわかりませんが、お父様が言うには大丈夫とのことです。
「それに、オディールはアレを魔法で殲滅するんでしょ?」
はっ!そうです!魔法です。
忘れるところでした、先程、固く誓ったではありませんか!
「わたし、魔法学園に逝きます!」
「ん?字が違う気がするけど…」
つづく
次回は、でき次第投稿します(_ _)