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001 魔法機工人形のオディールです。

1話目です。更新は不定期になると思いますので、宜しくお願いします。

 わたしが、初めて見たものは、わたしを覗き込む黒っぽい丸に白い物に縁取られた物。それが“目”だと、何かが教えてくれます。


 その“目”には、“感情”と呼ばれる歓喜と悲しみが込められていると、また何かが教えてくれます。


 その何かが“ソフィア”だと“ソフィア”が教えてくれます。


 しかし、私には、“感情”がどういったものなのか解りません。


 “目”とは、“感情”とは、“歓喜”とは、“悲しみ”とは、“ソフィア”とは何?


<検索


 目…光・色などを感受して脳に伝達する感覚器官


 感情…快・不快を主とする意識のもっとも主観的な側面


 歓喜…非常によろこぶこと


 悲しみ…負の感情表現。場合よって、行動力等の低下が見込まれる


 ソフィア…魔法機工人形の支援システムの総称


以上>


 ソフィアがまた教えてくれますが、その内容を理解できないわたし(・・・)…“わたし”?


<検索


 魔法機工人形


 個体名…未設定


以上>


 わたしは“魔法機工人形”?


<検索


 魔法機工人形…魔法機工学の提唱者である創造主ロッドバルト=オウルが、制作した魔法とからくりで動く人形


以上>

 

 わたしの問いにソフィアが次々と答えてくれます。“創造主ロッドバルト=オウル”?


<検索


 ロッドバルト=オウル…


 王国歴1239年水の月生まれ


 32歳男性


 王国歴1257年に王都魔法学園を卒業


 現在、目の前にいる人物が、該当人物


以上>


 この黒い目の人物が、わたしを造った?


<肯定>


「ろ、ロッドバルと。お、お、オうル?」


 わたしの“口”と言われる器官から、“声”と言うモノが発せられます。


「ん、僕のことを認識できるのかい?」


 わたしを覗き込んでいた人物は、歓喜の声をあげます。それが、わたしが声を出したことへのの喜びなのかはわかりませんが、どこかポカポカした感じがします。


<検索


 喜びの感情を感知


以上>


 わたしは、歓喜した創造主を見て、喜びという感情を覚えたようです。


 わたしは創造主ロッドバルト=オウルの問いに肯定の声を発します。


「はい」


「…ん、ソフィアは正常に起動したみたいだね」


「肯定です」


「じゃあ、動くことはできるかい?」


<検索


 関節起動部に問題なし


 駆動部を要確認>


 わたしは、創造主が求める声に答えるように回答を出したソフィアに従いながら、“右腕”にある“肘”をついて上半身を持ち上げようとしました。


 ガク


「うっ」


 しかし、うまく右肘を動かすことが出来ず、バランスを崩してしまい声が零れます。


<検索


 筋肉制御用の魔力の出力に異常を検知


 最適化を実行しますか?>


「んっ。すまない、気が急いてしまったようだ。慌てないでいい。君は、今初めて動いたんだ。ゆっくりと周りの様子を見ながら身体を動かしてごらん」


「…」


 わたしは、寝かされている身体を優しく支えてくれた創造主の言葉に頷き、ソフィアに実行を言うと、自分の手に目を遣り、動かし始めます。その間、創造主は、たどたどしく動くわたしを支えながら、愛おしそうにわたしを見守っています。





 わたしが起動してから早三ヶ月が過ぎた芽の月の初旬。季節は、冬が終わり、春と言う暖かな季節に移ろうとする時期で、動植物たちが目覚める時期なのだとソフィアが教えてくれます。


 季節には、春・夏・秋・冬という四季があり、今は冬が終わりを告げる“芽の月”で、来月は“花の月”と呼ばれ、様々な花が咲き乱れ、今よりも多くの動植物たちが活発に活動を始めるそうです。


 春が来るのが、待ち遠しいです。


 わたしは、暖かな日差しが差し込む居間を抜けながら、創造主である“お父様”の研究室の扉をノックします。


「お父様、御呼びでしょうか」


 扉を開けずに声を掛けます。こうすることが正しい作法なのだと“お父様”が教えてくれました。


「ん、オディール。入って」


 しばらくすると、研究室の中から“お父様”の声が返って来ました。


 最初は、創造主ロッドバルト=オウルとお呼びしていたのですが、悲しそうにわたしを見ておられたので、ソフィアに創造主への適切な呼び方を問うと、“お父様”だと教えてくれました。

 

 “お父様”とお呼びすると、嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしてくれました。


 そして、“お父様”はわたしに“オディール”という名前を授けてくれました。


 わたしが、研究室の扉を開けると、日影干しされたいる薬草と機械油が混ざったようなにおいが鼻を擽ります。そして、堆く積まれた本や書類のせいで薄暗くなっている部屋の机で何やら書いていたお父様が、顔を上げ笑顔でわたしを迎えてくれます。


「…何かの作業中だったかな?」


「お片付けが終わったので、お庭で植物図鑑を見ながら、ソフィアとの知識統合をしていました」


 わたしは、そう言いながら手に持っていた植物図鑑とスケッチブックをお父様に見せます。


「ん、オディールの知識欲はすごいね」


「はい、知るということは、楽しいです」


 そう、わたしは知ることがとても楽しいのです。


 動き出したばかりの頃のわたしは、感情という物を理解できませんでしたが、ソフィアとの問答が進んでくるうちに、感情が芽生えてきたように思えます。まだまだよくわからないことはいっぱいあるけれど…


 ただ、知るという感覚は、身体がポカポカと言うか、ドキドキとしたモノが体を駆け巡ります。この体験は、とても楽しかった。


 “楽しい”という感情を知ってからのわたしは、お父様が用意してくれたわたしの腰まである長い髪と同じ濡れ羽色の黒いドレスが汚れることなど気にせずに、いろいろなモノに興味を持ち、お父様とソフィアと問答を繰り返す日々を過ごしました。しかし、ひと月ほど問答をしていくと、お父様やソフィアでも答えられないことが増えてきました。そして、お父様から贈られたのが数冊の図鑑と大量のスケッチブックでした。


 それを不思議そうに受け取ったわたしを見ながら、お父様がわたしに声を掛けてきました。


『いいかい、オディール。分からないことや知りたいことがあったらこのスケッチブックに書きなさい。そして、この図鑑で調べてみなさい。ソフィアも僕が造った物だから知らないこともいっぱいあるし、僕が知らないことだっていっぱいある』


『…はい』


 その時、わたしは寂しいという感情を知りました。


『ふふ、何も僕に聞いてはいけないとは言ってないよ。この図鑑だって全てが載っているわけではないのだから。それに、僕だってオディールとお話しするは大好きなんだから。第一、可愛い娘から声を掛けてもらえない方が僕が寂しくなってしまうよ。だから、オディール。君が疑問に思ったこと、知ったことを僕にも教えてほしいんだ。できるかい?』


 どうやら、わたしの感情がお父様に伝わったようで、慰めるように頭を撫でててくれました。とても大きな手で少し油の“におい”がしますが、わたしはその“におい”が大好きでした。そして、嬉しいという感情を知りました楽しいとはまた違ったフワフワしたような心地のよい気持ちでした。


「で、今日は何について調べたんだい?」


「えっとですね。薬草の花壇で睨めっこしていました」


「睨めっこ?」


「はい、トカゲさんがいたので、睨めっこしていました」


 煉瓦で囲いが造られた花壇で栽培されている薬草の中をはっていた四本足で長い尻尾を持った動くモノがいました。


 ソフィアが“変温動物”“爬虫類”“トカゲ”と答えてくれました。どんな動物なのか問いましたが、ソフィアからは<未調査>と答えがあったのですが、調べようにもわたしが持っていたのは植物図鑑です。急いで動物図鑑をと思っていると、トカゲさんは何処かへいなくなっていたことをお父様にお話ししました。


「…トカゲさん?ヤモリかな?」


「ヤモリ?あのトカゲさんは“ヤモリ”さんというのですか?」


 わたしは、早速ソフィアに検索をお願いしましたが、検索にはヒットはなく、<未調査>と出てきます。


「あれ、ソフィアがヤモリを検索できない?」


「はい、未調査です」


「おかしいな?ヤモリぐらいだったら入っていてもおかしくないのだけど…どっかに欠損が?」


 お父様が、わたしを呼んだことを忘れてしまったのか、考えに耽ってしまいます。こうなると考えが落ち着くまでお父様は帰ってきません。


 カサカサ


「?」


 ふと、薬草を日影干しされている辺りから何やら音が聞こえて来ました?


<検索


 黙秘します


以上>


「?」


 何やらソフィアの回答がおかしいような?


<検索


 黙秘します


以上>


 またです。何故、黙秘なのでしょうか?未設定や未調査ではなく?


<…>


 もう、検索すらしてくれません。


 カサカサ


 また、音がします。


<!?>


 あれ、ソフィアが驚いてる?ソフィアに感情があるのですか?


<肯定


 オディールとの統合により、感情を理解


以上>


 なるほどです。ところで、ソフィアをここまで驚かすモノは何なんでしょうか?


 興味が湧いたわたしは、音の方へと近づいていきます。


<停止を要請します


 それ以上の前進を速やかに停止してください>


「え!?」


 初めてのソフィアの“お願い”に驚いて声を出して止まったわたし。


 そして…


 ブワ


 黒い物体がわたしの顔目掛けて飛んできました。


 カサカサ


 そして、わたしの顔を這う何か…途轍もないゾクゾクとした感覚が体を駆け巡ります。


「…う、うきゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


<×%&○¥▲□☆…>


 わたしは、目の前が暗転していきながら、初めて恐怖という感情を知りました。



つづく

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