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一の巻

 田渇が公孫賛に拾われて、早数ヶ月の時が流れた。

 その間、彼はとにかく学習し続けた。『己に足りないもの、それは!』と早口で並べ立てられるほどに学ぶべきものは多かった。

 口語と違い何故か漢文を要求される読み書き、常識的に無理がある風習、現代的物品(オーパーツ)溢れる文化・文明、宮仕えにあたっての各種書類仕事や手続き関連。

 そして、自身を守るための武術、庶人を守るための軍略や兵法。徒歩以外では唯一と言って良い陸上移動手段、馬術もだ。


 死ぬか逃げるかモノにするか。と言わんばかりの勉強量であった。

 しかし、教師たる公孫賛は太守の職務を全うしながら田渇への授業を行っていたのだから、それを考えれば投げるだの逃げるだのと言う選択肢を選べるわけが無い。




「田渇さんは凄いですね。慮植先生の下にいた頃の私とは大違いです」

「教えが良いのです。その慮植という方の教えを伯珪様がよく理解されているからでしょう。あなたの言葉はとてもわかり易い。それに、当時の伯珪様と今の私では、年齢や経験にも違いがあります」


 この世界では悪徳とされていることがわかっていても、田渇は謙遜する癖を直せないでいる。そんな彼に手間のかかる子供を幻視して微笑む公孫賛。

 いつもならここで終わり、次の話題へと進む会話。しかし、今日は違った。


 勉強に使用していた竹簡を片付けた二人が、改めて正面から向かい合う。

 どちらも表情には一切の遊びを持たせず、真剣な顔で見詰め合った。


「ここでの教えは、今日の分で全てです。覚えてもらうべき事は、一つを残して全て覚えてもらいました」

「……はい」

「もちろん、学問と現実には差がありますし、この世の全てを知ったわけでもありません。お互いに、今後も多くの事を学んでいく事でしょう」


 この会話は、二人にとって重要な一線なのだから。


「……今、貴方が学ぶべき最後の一つ。知っての通り、とても重いものです。それを踏まえたうえで、もう一度、貴方の意思を聞かせてください」


 田渇の視線の先で、公孫賛が目を瞑り、口を噤む。

 その静寂の意味を痛感しつつ、田渇はただ座して待った。

 何も聞こえない。今この時だけはこの世のすべてが黙り込んだかのように感じた。


 沈黙する事、60秒。

 ようやく目を開いた公孫賛は、正面の田渇に尋ねた。


「この罪の上に立つ私に、貴方の力を貸してくださいますか?」


 問いかけの意味を噛み締めるように、今度は田渇が瞳を閉じる。

 世界移動と言う孤立、助けられた恩義、公孫賛を知って感じた尊敬。それらと『学ぶべき最後の一つ』が天秤に掛けられて……一瞬で振り切った。


「地の果てであろうと海の向こうであろうと、御供させていただきたく存じます」

「本当に、良いのですね?」

「天に二日無く、地に二王無し。なれば、男に無きものは二言であるとお知り置きください」


 深々と頭を下げる田渇を見据える公孫賛は、少しして溜め息を吐いた。

 罪悪感と嬉しさを4:6くらいで混ぜたような表情は田渇が顔を上げる前に毅然としたものに整えなおし、彼の意思を受け取った。


「わかりました。顔を上げなさい、田渇。忠誠への信頼の証として、私の真名、白蓮(びゃくれん)を預けます。そして、主君としての最初の命を与えます」

「……何なりと」


 真名。その単語が出たとき、伏せられたままの田渇の瞳が、僅かに揺らいだ。

 この世界特有の隠し名である真名の存在は、字の存在意義を酷く薄めてしまっており、人の呼び方を姓名のみに固定させてしまっていた。

 田渇にとっては偽名と本名との距離が伸びてしまったようなものであり、少しばかり複雑な思いを抱いていた。


 なお、田渇の真名は悩んだ末に『青熊(セイユウ)』にすると決めている。

 現代でも高かった背丈に武術の仕込みで筋肉がついたせいで、体が本当に熊っぽくなってしまっているところが少し悲しい。


「今この時より、公式な場 以外での他人行儀な振る舞いを禁じます」

「……伯珪様」

「白蓮です。わかりましたか?」


 諌めるように字を呼んだ田渇を、言葉で押さえ込んだ。

 地位あるものとして、褒められた命令ではない事は理解している。

 それでも公孫賛/白蓮は一線を引こうとする田渇を自分の側に引き込む事を選んだ。

 他でもない、自分自身の為に。


 田渇はそんな白蓮の態度から決意は固いと感じ、早々に白旗をあげてしまう事にした。


「心得ました、白蓮様。ですが、真名に関しては部外者の居ない場所に限らせていただきます」

「ダメです。やり直しなさい」

「……わかりました、白蓮様。預けてない人がいるときは字で呼ばせてもらいますから、それは許してください」

「はい、大丈夫ですよ」


 にっこり笑顔の白蓮に気圧されながら、田渇は苦笑いを浮かべた。

 別人だろうけど、やっぱり“聖”は我が強い、と。


「では、白蓮様。手前の真名は青熊。どうかお受け取りください」

「ええ、ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね、青熊さん」


 これも偽名ですがね、と田渇は心の中だけで呟く。胸の奥に軋むような痛みを感じながら。

 だがそれでも……『未来』は有害であると信じてやまない彼は、当初と同じく自分の真実を伏せる道を選ぶ。

 その選択の吉凶は、誰にもわからない。




 真名を交わし終えた二人は、次の目的地へと歩き出す。

 先に白蓮が行き、その右後方二歩の位置に八角棒を携えた田渇が続く形だ。

 その道中で、白蓮は正面を向いたまま目的を話す。


「今朝、領内を巡回させていた兵たちから連絡がありました。しばらく前から被害が出ていた盗賊たちの拠点が見つかったと」

「では、討伐を?」

「はい。既に調査隊を先行させて、詳細を確認させています。私たちは騎馬二百を含む二千の兵でこの討伐に向かい、道中で調査隊の報告を受けて対応します」

「確認できている賊の規模はどれほどなのですか?」

「拠点を押さえているものだけで、およそ三百と報告が入っています」


 盗賊などと言う生産能力の無い集団が、少数だけを動かすと言うのは考えにくい。この報告が総勢を数えたものならば兎も角、留守番で三百人も居るのだとしたら相当な大所帯だ。そんなに残して何をすると思わないでもないが。

 いずれにせよ、戦闘経験の無い田渇には一兵卒としての働きを割り当てるしかない。


「青熊さんは、今回は私の傍にいてください。何れは一隊を率いてもらいますが、今回は初陣ですから」

「承知しました。お気遣い有難うございます」


 田渇の足音が少し大きくなった。背後の気配に硬さが増して、緊張しているのがわかる。

 気を張りすぎれば体力の消耗が激しくなり、隙を生みやすくなる。戦地で隙を作るときは、即ち死ぬときだ。

 白蓮は足を速めて三歩進み、勢いよく振り返った。突然の白蓮の行為に、田渇は驚いて急停止する。そして。


「私を、守ってくださいね?」


 できるだけ明るい笑顔を浮かべて、そう言った。

 戸惑っていた田渇だが、少しして言われた言葉の意味を理解すると、全身から力が抜ける。


「ええ、全力でお守りさせていただきますとも」


 そう言って八角棒で床を軽く一突き。硬い木材を叩く小気味のいい音を聞く田渇の顔は、確かに笑んでいた。

 恋姫だぞ!と主張するための真名交換回。

 イメージの都合で地の文でも真名表記したかったんです。時々混ざりますけど。


 田渇は真名も偽名です。なので地の文も田渇のままにしてます。あ、後ろに『獣』とか付けないように。

 彼の中で未来知識は劇物指定を受けているので、ホイホイ明かしたりしません。

 少なくとも誰かに詰め寄られない限り、語られる事はないでしょう。



 さて、今後の展開ですが・・・モヤモヤと考え中です。

 次は初陣と内政、客将の人の話で行こうと思っているのですが、その先が……


1.恋姫(蜀組)を勢力に取り込む。

2.思想不一致。二君状態を避けるため、早めにお引取り願う。

3.ちみっこ軍師ズを確保して、2ルート。


 桃の人の思想を考えると、1は危険かも。夢があるの!の一言で領地荒らして(しかも無自覚?)どっか行っちゃいそうな……穿ちすぎですか?


 2は普通の蜀アンチっぽくなっちゃいますね。


 3は一番楽な展開ですね。二人が『御使い』にどれだけの期待を持っていたのかが不明なのですが、白蓮の理想(ここでは『手の届く範囲に恒久的な平穏を』とする予定です)でも引き込むには十分だと思ってます。


 将が不足するようなら、恋姫未登場の名前で幻想郷から出張してもらう予定です。軍師ナズーとか、有力候補。ロリコンってゆーな。可愛いものを愛でて何が悪い。


 アンケートっぽくやってますが、多く投票してもらったらそのルート、というわけではなく、これプラスこんな事やったらどう?的なご意見をいただけると嬉しいです。


 恋姫未プレイ+手元の三国志資料は北方三国志のみなので、色々吹き込んでくださると、意欲とか出来栄えとかが向上します。


 よろしくお願いします。

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