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商人と傭兵編 3

これまでのあらすじ


森の中で倒れてた人を助けたキャラバンの少年カイル。

助けたのは、東方から来たという重武装の小柄な傭兵、スバルだった。

何かの縁ということで、傭兵はキャラバンに同行することに。

森を抜けるまでの5日間、思わぬ来客の参加は隊商に活気と話題をもたらした。

「へぇ、東方ではこんなものを蒸して食ってるのか。面白れぇなぁ」

髭を蓄えた隊商の一人が、指先を日にかざし感心の声を上げた。指先には、黄金色の穀物の粒が捉えられている。スバルが持っていた何粒かのうちの一つだ。

「蒸す、というより煮るのに近いですけどね。小麦に似てますけど、粉にしないでそのまま食べるんですよ」

「なんだか美味そうだな。なぁスバルさん、もう少しこれ分けてくれよ。今度クニに帰ったらうちの家内に育てさせてみるからよ」

「おいバズ、お前だけずりぃぞ!スバルさん、俺にも分けてくれ!」

「俺も俺も!」

「そんなに皆さんに分けれるほど持ってないですよ。それにこれを育てるのは、僕の故郷の独特な畑じゃないと上手く育たないんです。すみません」

「なんだ~」「食いたかったなぁ~」「おーいリーダー!今度遠出するときは東方にしようぜ!」

「ああ、考えとくよ。私もそのコメというのが食べたくなってきた。それに東洋には神秘的な女が多いらしいからな?」

セバの含みをこめた言葉を聞いて、男たちから口笛やため息が漏れ出す。自然と、そういった方向に話題は逸れだした。

「どうした?お前は混ざっていかないのかよ?」

楽しげに相槌を打つスバルの後姿を眺めていたカイルは、急に声をかけられて横を振り向く。いつの間にか、アジンが隣に並んで歩いていた。

「隊列が乱れちまうっすから。一応、護衛なんで」

「おうおう、真面目なこって」

「アジンさんこそ、話に混ざりにいかないんすか?下ネタ大好きでしょ?」

「馬っ鹿、大好きじゃねぇよ。そこそこだ」

アジンはそう言いつつ、首の後ろで手を組む。話の続きでもあるかとカイルは待つが、アジンが口を開く様子はなかった。仕方なく、カイルはまたスバルの後姿を眺め始める。

東洋の血の特徴なのか、背は意外なほどに低い。まだ年若いカイルよりも幾分小さく、その小柄な体が全身鎧を見事に着こなしているのが目を引いた。

日の下のプレートアーマーは、よく見るといくつもの傷がついていた。肩口と脇腹、ブーツのふくらはぎの部分には明らかに斬撃の跡と思しき白く鋭角な傷があり、背中の部分は何かで殴られたように少し窪んでいる。

(そりゃそうか。傭兵…戦のプロだもんな)

形だけの護衛の自分と比較し、カイルは奥歯を噛みしめる。同時に、早朝に父親に言われた台詞が浮かんできた。

『カイル。森を抜けるまでは、剣はマントの下にでも隠しとけ』

出発の忙しさに紛れてさり気なく告げられた一言が、カイルの心をいまだに占めていた。

(確かに、スバルさんのほうが頼りになるだろうけどさ、剣ぐらい堂々と持ってもいいだろ。こんな扱いするなら、最初から護衛なんて名目で連れてくるなよ。クソ親父)

鬱屈した思いを持て余し、黙々とカイルは歩き続けた。その様子に気付いたのか、またアジンが声をかける。

「なんか、悩み事でもあんのか?」

「あ…アジンさん、やっぱスバルさんは頼りになりそうに見えるっすよね?」

「んー、まあな。傭兵なんてやってるんだから腕も立つだろうし、あの重装備で軽々動いてるからなぁ。ナリの小ささなんて関係なく、ずっと強いんだろうよ」

「そうっすよねぇ…」

「でもな、『頼りになるか』と言われたら、坊主のほうが頼りになる。それは間違いない」

「…へ?」

「俺ぁな、坊主の生まれたてのころからずっと見てきたんだ。お前のことはよく知ってる。親父に似て責任感が強い、からかいがいのあるやつ。護衛でついてくると決まってから、こっそり剣振り回して練習してんのも知ってんだぜ?」

突然の暴露に驚き、カイルの耳に朱が注す。誰にも見られていなかったはずの幼稚な鍛錬が見られていたことに動揺する。だが、それを指摘する声にからかいの色は含まれていなかった。

「金ならまだしも、命を預けるってんなら見知らぬ奴と比べられねぇよ。頼りにしてっぞ」

カイルの肩を軽く叩き、アジンが口角を上げる。カイルがぎこちなく返事をしたのは、しばらく経ってからだった。


読了ありがどうございました。

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