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第5限目   記憶なし!?




「遠見さん?」

「ふぅぇ!?ななななな、なんでしょうか?く、黒木君」

(――はぁ)

人知れず、心の中でため息をついてしまった。



現在、遠見さんと俺は“講堂”に向っている。部活見学の過程で、運動部も室内系だったらやっているだろうという判断だ。体育館は反対方向にあり、講堂の方がより近かったのでそちらに向うことにしたのだ。

さて・・・・。


「あのさ・・・」

「ひゃい!?な、何か粗相をしましたか?」

だめだこりゃ・・・・。


二人っきりになってからずっとこの調子である。ずいぶんと嫌われたものだ・・・・。

ここまで嫌がられるとゴキブリ並の反応ではないかと思う。

ちづ姉、曰く。

『誠、あんたは致命的不細工じゃない。それはこのあたしが保証してあげる。でも、調子に乗らない事ね。正視に堪えないほどでもないけれども、それ以上でもない。つまり、あんたの顔は気にも止められない程度の物なのよ。そこの所をよく理解しなさい』

さすがにひどい・・・・いや、むしろ流石ちづ姉と言うべきなのか。


しかし、しかしだ。

正視に堪えないほどではないのだったら、どうして遠見さんはこうも視線を逸らすのだろう?



―――ちらっ?



―――サササッ!!



―――ちらっ?



―――サササッ!!



―――ち、ちらっ?



―――さ、サササッ!!?



(―――ちょっと、おもしろいな)

フェイントをかけてみると、見事にそれに引っかかってるし。小動物的愛くるしさとでも言うのだろうか、動作がなんとなく小さい生き物を連想させる。

それによく考えてみれば、この動作は俺自身が横を向いているだけである・・・・分かりにくかっただろうか。

つまり、遠見さんはこちらの顔を窺っている、自惚(うぬぼ)れるならばこちらの顔に見惚(みと)れているわけである。

・・・・ああ、無いな、それは。しかし、見られているならばちづ姉の言ったような正視には堪えるのだろう。


(――それは、つまり・・・・・顔以外に原因があると!?そういうことか!!)


(――ある意味それは顔よりも悪いのでは?)


(――例えば、生理的に受けつけないとか)


―――グサッ!!ガクッ!!


「え、えぇぇ!?黒木君どうしたんですか?どこか痛いんですか?」

少しオーバーリアクションが過ぎたようだ。

自分の言葉に自分で傷ついていたら世話無い。

ついた膝の(ほこり)を払うと、つまずいただけだと詫びて、再び歩き出す。


なんとなく苦手なキャラな遠見さんだが、決して嫌われたいとかそういう事は無い。

美人は何よりも優先されるとはアホ印南の言だが、一高校生男児としてはそれほど異論は無いのである。

印南の言葉という点でむかつくのだが・・・・それは置いといて。


――講堂に着いた


なんとなくほっとする俺に遠見さんはいきなり話しかけてきた。

「あ、あの黒木君・・・・」

「え?」

「・・・・朝、は本当にありがとうございました!!」

一気呵成にとばかりに頭を下げる遠見さん・・・・なんで?


なんとなく空気が読めてない奴みたいで嫌なんだけど口を開く。

「あの、ごめん。朝、俺なんかしたっけ?」


ビクッ!!


頭を下げたまま遠見さんの身体が震えた。

それはどんなに察しの悪い奴でもわかる“まずった”時の空気だった。

恐る恐るとばかりに顔を上げる遠見さん。その表情が泣きそうになっているのを見て、あわてて言い訳を口にする。

「あ、あの、俺さ、朝が苦手でよく憶えてない時があって、それで・・・・」

「止めて下さい!!」

普段の遠見さんから発せられたとは思えない声でそれは響いた。

廊下で遊んでいた生徒の視線がいっせいに集まる。

泡を食って、俺は遠見さんの腕を掴むと階段の裏に隠れる。


遠見さんは呆然としたようになすがまま。見ようによってはやばい事をしているような光景だ。

くそっ!!朝、俺は何をしたんだ!?言い訳らしい言い訳もできない事に腹が立つ!!


おちついた遠見さんは謝罪の言葉を口にした。

「怒鳴ってしまって、すみません、黒木君。あの、憶えてないんですよね?」

「ごめん。俺、朝なんか遠見さんに悪いことした?」

「いいえ、黒木君は私を助けてくれたんです。・・・・本当に憶えてないんですか?」

「・・・・うん」


助けた?現実味の湧かない言葉だ。

何をどう助けたのだ?

あれ?そういえばつい最近にも頭を下げられて・・・。

「わかりました。考え様によってはそっちの方が嬉しいです。」


「え?」


「大丈夫です。私、負けません」

ま、負けないって、誰に・・・・・って俺か!?


ホントーに何やったんだ俺?対抗心燃やされてるんですけど、なんか・・・・。

さっきまでの弱気の遠見さんはどこに行った!!


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」

な、なんで突然お黙りになっているんでしょう?沈黙がこんなに辛い物だったなんて・・・!?


「・・・・黒木君」


「はいっ!」


「今週の日曜に私とデートして下さい!!」


「はいっ!!はい・・・・・はい?」

な、なぜにデート!?


「こ、これ」

と差し出してきたのは一枚の折りたたまれたピンク色の紙。

開いて見ると、駅の噴水前で待つ内容とご丁寧に待ち合わせ時間まで書かれている。

女の子らしく丸まった字で書かれているのだが・・・・。


顔を上げると遠見さんはどこかに走り去った後だった。




「・・・・・デートって、聞き間違いじゃないよな?なぜに?なんですかこの展開?俺にどうしろとっ!!」

混乱の局地に立たされると、口をついて出るのは罵詈雑言だけだと俺は初めて知った。




 ◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆




後に残された俺は仕方なく一人で回る事にした。

はっきり言って展開が早すぎてついて行けない。

何者かの悪意すら感じるっ!!



この紙は遠見さんが用意したのか?

ならば最初からデートするのが目的だったと?

しかも、俺と?

そんなバカな・・・・いや、もしかしてこの紙を命に渡しておいてくれってことなのか?

・・・・それはさすがにないな。いくら遠見さんがそそっかしくても一言言うだろう、さすがに・・・・。

でも、それは、つまり、ええと・・・・・・・・・・・・おれと、でーと、ですか?

・・・・なんでこうなったんだろう・・・・。


とぼとぼと足を進める俺の背中には間違いなく哀愁が漂っているはずだ。

女の子にデートに誘われて落ちこむとは、これいかに?


考え事に没頭しながらも足は講堂に向う。

やがて、部活動特有の活気が俺の耳まで届いてくる。



確か、講堂で活動しているのは『卓球部、バトミントン部、柔道部、剣道部』だったはず。

なかでも俺が興味をそそられたのは剣道部だ。

以前、(みこと)と一緒に弱小剣道部の団体戦の助っ人をした事がある。その時の雰囲気と実際に竹刀を交わした時の記憶が頭にこびりついて離れない。

気合一閃、とでも言うのだろうか・・・・ともかくその場の空気と緊張感が一発で俺は好きになった。

防具などを買い揃えると、とんでもない額になると知ったのは結構後で、団体戦の試合後は結構剣道部に入り浸ったものだ。

ん?試合の結果はだって?

惜しくも準優勝。命と部長さんが頑張ったのだけど、俺と残りの二人が勝てずにアウト。それも今では良い思い出だ。


中を覗くとみんな声を出しまくり。

おーおーやってるな~。

お邪魔しまーすと一言言ってから靴を脱ぎ、フローリング状の床に靴下の足を下ろす。ひんやりとした床が何気に気持ちいい。


「腹から声ださんか!!」


「はい!」


「声が小さい!!」


「はいっ!!」

柔道部か



キュッ、キュッ、キュッ・・・パッン

「もう一セット」

「お願いします!!」

こっちはミントンっと。


あれ?剣道部が見当たらない。

端っこの方で休憩をしているのは卓球部の面々だと思うし、体育館の半分ほどだと思われる敷地面積の大半は他の部活動の生徒で埋まっている。

本日はお休みですか、ついてないな~と思い。講堂に背を向けようとした時にそれは視界に入った。

白い剣道着に紺色の(はかま)、手には竹刀を持った少女が準備室から出て来た。

防具を並べるでもなく、竹刀を中段に構えると素振りを始める少女。

気合もなく、黙々と振る、振る、振る・・・・。

(――って、いかん、いかん、思わず見入ってしまった)

ひとまず声をかけますかと気の利いた言葉を考える。


「あのー剣道部の方ですか?」

はい、ふつーでした。

「?」

疑問符を浮かべて振り向いた女の子は小柄でショートカット。わずかに火照った白い肌を見てると、剣道部というよりかは文学部にでも所属してそうな子に見える。

おっと、こちらから声をかけたのだから何か言わないとな。


なんとなく意外な印象を受ける女の子から意識を外して言葉を紡ぐ。


「・・・・剣道部の見学をしたかったんですけど、もしかして今日はお休みですか・・・・先輩」

1年がこんな所で竹刀を振ってるわけがないから先輩だろうと当りをつけたんだが・・・・。


「・・・・1年だから」

1年ね。それは剣道を始めて1年という事か、いや、普通に考えれば1年生ですよーということだよな?

沈黙が降りないように言葉を続けて・・・・と。


「自主練をしてる」


「あっ、そうなんだ」


「・・・・・」


「・・・・・」

しまったーーーーーー!!ち、沈黙再び!!

な、何か言わねば!!俺は命と違って会話の弾むイケメンじゃないんだ!!

うがー命のバカーーーー!!

と、暴走気味の俺に予想外の言葉を少女は掛けて来た。


「おぼえてる?」

「何を?」

思わず聞き返してしまった。

がっかりした様子もなく淡々と少女は続ける。


「私が、助けられた」


「えっ?」


それは、完璧に予想外の科白(せりふ)で、言葉を失った。


命と如月さんの言葉を思い出す。


(――また、助けた?俺ってそんなにお人好しだっけ?)





はぁ、《すずかぜらいた》です。

やっと更新できた。いえ、できました。『コノ手ニツカメル物』との両立を考えてるんですが、どうにもうまく書けませんね。今までと比べて、すこし少なめの文量での更新です。

お楽しみいただければ幸いです。

では、ごゆるりと

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