第1限目 陰謀だ!!
「おはよう。同じクラス、C組のようだな」
「そうみたいだな。1年間よろしく、命」
「こちらこそよろしく、誠。その眼鏡似合ってるぞ」
「別におまえに誉められても嬉しくない」
よかった。中学からの付き合いのこいつが一緒なら、1年間退屈せずに済みそうだ。
179センチ強の身長とがっちりとした体形。さらさらと前髪を揺らし、俺に声をかけてきたのは柏崎命(かしわざきみこと)だった。悔しいことにコイツ・・・・かなりのイケメンだ。しかも、礼儀正しくやたらともてる。欠点があるとすれば、もててることに気がつかない、鈍感野郎だって事だ。こいつのおかげで俺までゲイ疑惑まで出てきたのだから、その鈍感さは押して図るべし。果敢にアタックし、気づいてもらえなかった女子達に合掌である。
さて、教室に集合。名簿順だったので、柏崎の“か”と黒木の“く”のおかげで命は俺のまん前だった。1クラス40人前後で、Gクラスまであるから1学年280人前後か。結構いるな。
外に並ばされた後、昨日も訪れた体育館へと歩く事となった。
ネクタイの調子を軽く整えながら、1年間を共にするメンバーの様子を窺ってみる。流石に入学式とあってからか、騒いだりする人物もいない。特筆するとすれば、髪を染めている人が何人かいる事ぐらいだろう。封麗学園の校則は緩く、それがこの学園の人気の一つにもなっている。
曰く、自由を尊べ。己を偽るな。そして守れ。だったような気がする。守れがなんの事を指すのかが、いまいち抽象的でよくわからない点ではあるけれども、開放的な文はなかなか好感が持てる。
私語をせずに前を向いて歩く命に悪い気がして、隣の人に声をかけてみる。
「ええと、こんにちわ?」
「え?・・・ああ、こんにちわ」
困惑されてるし・・・。
「ああと、俺の名前は黒木誠だ。黒い木に誠実の誠って書く」
「私は如月瞳。うーん、旧暦の睦月、如月、弥生のの如月に目の瞳って書きます」
「・・・なんかごめん。俺の紹介に合わせてもらって」
説明に迷ってたし。
「いやいや気にしなくて良いよ。声かけてもらって嬉しかったし。1年間よろしく」
「よろしく」
体育館に着いて会話は終了。男女別に左右に別れて座っていく。
ぼお―っと話を聞いて、起立着席を繰り返す事しばし・・・。
「それではPTA会長の氷ノ山翔の祝辞の言葉です。生徒一同、起立・・・」
あっ、昨日の人だ。
「今日はすばらしき日となりました。封麗学園に新しい・・・」
2日続けて前で話すなんてこの人も大変だな・・・。
どこか場違いな感想を抱きながら命に教えてやる。
「・・・そうか、案外楽しんでやってるのかもしれないぞ?」
そうかな~?
命から視線をはずし、前を向くと、PTA会長やらと視線が合った気がした。
(――やっば!?初日から目をつけられたか?いやいや、今後あの人と話す機会なんかこないだろ。面倒ごとは勘弁してくれ。きっと気のせい気のせい)
どこか肩の荷が下りたものを感じながら体育館を後にする。
「あの人、誠を見ていた気がするな・・・」
「・・・・あの人って?」分かっていたけど聞き返してみる。
「PTA会長氷ノ山翔という人だ」
名前覚えてるんかい。
「気のせいだって気のせい・・・」
自分でも信じてない事を信じこませるように繰り返す。これは余談だが、命は合気道経験者だ。訳あってもう止めたものの、そのため人より視線に敏感なのだそうだ。
気のせい気のせい・・・だよな?
C組につくと担任の若林太郎が自己紹介の時間を取ると言い出した。
うむ、これによって今後の命運が決まるといっても過言ではない。
わからない人のために説明すると、自己紹介というのは今後クラス内での人気人物とパシリの位置付けを決める重要なイベントの一つなのである。
「一人一分以内な、てきとうにやってくれ・・・」
自分で言い出した事だろ・・・・大丈夫か、この担任?
さて、ここには気になった奴と逆に最低な奴を紹介していこう。
「綾部織戸ぴちぴちの十五歳です。性別は男、好きなものは自分、嫌いなものは野菜、趣味は鏡を覗くことです!!」
その後も自分を賛辞する言葉を述べてからこいつは座った。
一言、言わせてもらえれば・・・・・みんな引いてた。
金髪ナルシストめ!
「名は柏崎命、趣味はスポ-ツ全般、得意科目は数学、苦手科目は古典です。自分は人付き合いが得意ではないので、できれば話し掛けていただけると助かります。・・・・・あと古典が得意な人は歓迎します。1年間よろしくお願いします」
拍手しながら思う、あいつらしいなって。
さて俺の番は飛ばして・・・・。
「つぎは黒木君の番だな。がんばってこい!」
だよね~どーも、如月さん。
「・・・・黒木誠16です。修了中学出身です。好きなアーティストは桑田佳祐で、早く復帰して欲しいと思います。あとは面倒ごとが嫌いです。どこぞの団長みたいに、宇宙人も未来人も超能力者も要りません。1年間よろしくお願いします」
完璧に普通だ。これでトラブルはやってこないだろう・・・・・・如月さんの視線が若干気になるところだけど。
「・・・・紋武明(もんたけあきら)です。趣味は・・・寝る事です。平和に寝てても起こさないで下さい。1年間よろしく・・・・」
ものすごい眠そうだ。席に着くや否や寝てやがるし。
男子が一通り終わって次は女子の番だ。
「如月瞳です。趣味は運動で、得意科目は体育です。体育会の時は頼って下さい。1年間よろしくお願いします!!」
すごい自信ですな。それより、席に戻ってきた如月さんに聞いてみる。
「如月さん、女子にもてるでしょ?」
「なっ、なんで知ってるんだ?もしかしてストーカ―!?」ちゃうわ。
身近に似たタイプの奴がいるだけ・・・・・はぁ、自分ではもてる理由に気づいてないんだろうな、こうゆう人って。
「仁尾辰子(におたつこ)です。趣味は読書で、得意科目は数学です。縁があり同じクラスになれたみんなと1年間楽しくやれたらいいなと思っています。どうぞよろしく」
委員長キャラだな。眼鏡かけてるし。
「・・・と、遠見深雪(とおみみゆき)です。え、えっと、とぉ得意科目は・・・・・あっ、ありませんでした。えっと、苦手科目は数学です。い、1年間よろしくお、お願いしますっ!!」
どもり過ぎ。引っ込み思案ってゆうんだっけ?からかわれるか、いじめられるかしそうだな。
こうやって挙げていくと変な人しかいないみたいだけど、聞き逃しただけで他にも変わった奴がいたのかな?この世には誰一人として同じ人なんか居ないんだし・・・。
「よし、終わったな。そんじゃ、仁尾。おまえ委員長やれ。」
無茶ぶりだな若林。
「・・・あの、なんで私なんでしょうか?」
もっともな質問だが、委員長っぽいからじゃないの?
「似合ってるからだ|(断言)」
言いきるとこは男らしいな。
「それは冗談として、委員長は責任感のある奴にやってもらいたいしな。おまえが嫌なら無理強いはしないよ。どうだ、やってみないか?」
「・・・・そこまでおっしゃるなら引き受けさせてもらいます」
あーあ、引き受けちゃった。
「よし。これから黒板に各役職を書くから、仁尾が司会進行で決めてくれ。仁尾、後は任せた」
やり手だな、先生。
仁尾さんはかわいそうにため息をついている。ドンマイケル・ジャクソン、死んじゃったなマイケル、黙祷。
決めなくちゃいけない役職が書き出された。
学級委員長・仁尾辰子
代議委員|(1名)
図書委員|(2名)
保健体育委員|(2名)
選挙管理委員|(2名)
環境整備委員|(2名)
「それでは、最初は自分でなりたい役職に挙手をしてもらいたいと思います。まず、代議委員・・・」
代議員は誰も手を挙げないみたいだな。委員決めは皆やりたがらないものだが、ここでなにかしらに決めといた方が実は良いのだ。なぜならば、後々になって、役職に就いてない人を対象にして決められる役があるからだ。そういった場合の特別な役職は大概面倒なものが多い。ここで決めておいた方が、かえって楽だったりするのだ。
狙い目は図書委員か、環境整備委員だな。
「いないようなので飛ばして・・・次、図書委員」
おっ?恐る恐るではあるが、どもりまくっていた遠見さんが手を挙げた。
「一人目は遠見さんで・・・・先生、定員が2名の役職は男女が望ましいと思いますがどうでしょう?」
「ん、委員長に任せる」
・・・・それで良いのか教職員。
どうやらよかったらしく、男子で誰かいますか?と委員長が呼びかけている。
うーん、ここは狙い目だったけど、あの子に恐縮されたりするのが目に見えるようだしな。付き合ってみれば良い子なのかもしれないが、気を使うのもやなので、ここはスルーで。などと思っていたら、顔見知りが手を挙げた。
「はいはーい、俺やりますっ!!」
「わかりました。他にはいないようなので、印南君に決定します」
やつは満足そうに頷くとこっちに目配せをしてきた・・・・・きもい。
印南章二(いなみしょうじ)。大したことを言ってなかったので、自己紹介の時に挙げなかったが、こいつはオタクだ。おそらく図書委員に立候補したのは遠見さんがかわいいとかそんな理由だろう。頼れる特技を持っているのだが、それ以外はただのオタクである。
「それでは次、保健体育委員。」
「「はい」」やっぱりな。
俺の前と横から気持ちの良い声があがった。命と如月さんだ。
保健体育委員も運動会みたいな行事や、気分の悪くなった人を保健室に連れて行くだけの役で簡単そうだ。しかし、命が手を挙げるのは分かりきっていたので候補には挙がらなかったのだ。
如月さんも運動が得意というだけあって、手を挙げるのにためらいがなかったみたいだ。
「はい。次、選挙管理委員」
この役職は面倒なんだ。長期間に渡って生徒会の選挙を手伝わされるし、朝の挨拶やらにも参加させられたりする。経験者は語るってやつだ。
「・・・はい」
・・・意外なやつが手を挙げた。確か、紋武明?だったと思う。寝てたんじゃないのか?
「紋武君の他にはいませんか?」
うむ、次が勝負だ。俺以外にその思考に至っているやつがいなければ良いのだが・・・。
「それでは最後に環境整備委員・・・」
「「はい!」!!」
誰だ!?
振り向きてきながら俺と目が合ったのは、金髪ナルシストの綾部だった。
「・・・2人はじゃんけんで決めてもらいます」
勝った!!俺をじゃんけんキングと知っての挑戦だな?
俺は笑いが外に漏れないようにポーカーフェイスを保つ。
勝ち方は簡単。後出しをすればいいのだ。グーを保ったまま、相手の手を観察し、タイミングをずらし相手に勝てる手に変える。グーの状態はチョキだろうとパーにだろうと出来る。理論上は簡単に聞こえるがこれができる人は意外に少ない。この理屈で負けた事があるのは、動体視力が異常に良い命だけだ。
「最初はグー・・」
「じゃんけん・・」
しめた!!もうすでに綾部はパーの形にしている。
「「ポンッ!!」」
そして敗者と勝者が決まった。
勝ったのは・・・・。
「環境整備委員は綾部君で決まりね、他に女子で希望者はいませんか?」
・・・・・・ま、負けた。
ふと、綾部の顔を窺うと奴は笑顔で俺の事を見下してやがるっ!!
「ふっ、美しいさを保つ役職にふさわしいのは僕だったようだな」
ヤローッ!!いつか殺す!!
冷静になり、反省会を開こう。なぜ負けたのか?
それは、あいつがこちらにチョキを誘ったのだ。パーを出しとけば相手は油断する。実際問題、パーからグーに変えるのはなかなか高度な技だ。下手をすれば後出しだととがめられかねない。あそこで咄嗟に変える事が出来たのは、おそらく最初からグーに変えるつもりでいたのだろう。腹積もりが出来ていれば、タイミングを計ってグーに戻すのは簡単だ。パーからグーに戻すのは、相手の手を見て変えるから難しいのである。
くっ、しかしそこまでやるからには、仕掛けられる相手がそれなりにじゃんけんが強くなければならない。ただのナルシストではないようだ。
俺がじゃんけんの検証に熱くなっている間、話は進んでいた。
俺にとって望ましくない方向に・・・。
「他に残りの役職で希望をする方はいませんか?・・・・・・いないようですので、推薦形式を採りたいと思います」
学級委員長・仁尾辰子
代議委員・(未定)
図書委員・印南章二、遠見深雪
保健体育委員・柏崎命・如月瞳
選挙管理委員・紋武明(他1名)
環境整備委員・綾部織戸(他1名)
「はいは~い、俺は黒木が代議委員が良いと思います」
(――それにしても、ナルシスト野郎に負けたのか)
「印南君、推薦理由はなんですか?」
(――いや、次は負けないぞ)
「そいつとは中学の時からの付き合いなんですけど、なんだかんだ言って頼れる奴なんで、代議委員というめんど・・・じゃなかった、大役もこなせると思ったからでーす」
(――絶対だ)
「・・・なるほど、もっともな理由です。黒木君はどうですか?」
「はい?ああ、対策を練って無駄なく失敗のないようにやり遂げて見せますよ。次こそは!」
「分かりました。それでは、黒木君を代議委員に決定です」
へっ!?
なぜか委員長のその言葉の後に拍手まで起こって、あれよあれよの間に残りの委員も決まって終了。
ボーゼンとする俺を取り残し、配布物が配られた後、帰り支度を皆始めてしまった。
「いや~やってくれるって思ってたよ」
肩を叩きながら、印南がドアをくぐって行った。
「・・・・・何が起こったんだ?」
「なんか変だと思ったが、話を聞いてなかったな?」
命に頷くと、何が起こったか教えてくれた。
「印南ぃーーー!!てめぇ!待ちやがれっーー!」
後で聞いた事だが、環境整備委員の残りの女子は誰もなりたがらなかったため。
「遅くなると面倒だし、おまえ一人でいいや、もう」と若林。
「委員長の権限で一人でやって下さい、綾部君」と仁尾さん。
ざまーである。
《すずかぜらいた》です。
蓮恋廉憐《ren,ren,ren,ren》がスタートしました。黒木君の受難ははじまったばかり、楽しんで読んでもらえたら光栄です。
ご意見ご感想をお待ちしております。
では、ごゆるりと