プロローグ
今日は封麗学園の卒業式だ。といっても俺のじゃない。従姉の加賀千鶴の卒業式だ。
それに入れ替わるように俺はこの高校に入学する。受験勉強は千鶴ことちづ姉に診てもらった。自分も受験生のくせに国立の大学に推薦で入っていて、ちづ姉のしごきは半端がなかった。容赦とかカケラもない毎日を送らさしてくれたちづ姉には、いつかお礼参りをせねばと心に決めている。
「――本日は御日柄もよく、すばらしい朝を迎えました。封麗学園の皆様に置かれましては・・・」
理事長だかPTA会長だとか呼ばれた人が、祝辞を述べている。無駄に長い前置きと、紋切り型の科白の羅列。年に一度、一般的に3回あればよいであろう行事。関係者といえば関係者で、心情的に無関係な身としてはめんどくさい以外の感情が湧かない。
思わず欠伸をしかけて、慌ててかみ殺した。ちづ姉に見られたかと思ったのだ。当然そんなわけもなく、背筋をピンと反らし俺が座っている位置からかなり前で、真剣そうな表情を浮かべている。内心はともかく、きりりとした表情は本性を知っている俺からしても、見惚れそうになるものがある。
彼女の周りを見れば、既に泣き出している人もいる。
(――俺も卒業式の時は泣いたりするのだろうか?)
などと考えて、自分の冗談に苦笑する。多少の郷愁も湧くだろうがそれだけだろう。これでも男の端くれのつもりだ。馬鹿にするわけではないが、涙もろいのは女の特権だろう。では、目の端に一滴さえ浮かべることのないちづ姉は男なのだろうか?・・・・・こんな事を考えていたら殺されるななどと思いつつ、まだまだ終わる気配のない祝辞を聞き流した。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆
「おーい、誠。なんか言う事は無いのかな?」
正直そんな言い方をされると言う気が無くなる。
「・・・・・卒業オメデトウ」
あきらかに棒読みだったにも関らず、ちづ姉はにっこりと笑顔を浮かべると“ありがとう”と言った。てっきり頭を小突かれるくらいの事はされると思ったのに拍子抜けだ。こうゆう時に女はよくわからんと思う。
自分のした事に子供っぽさを感じて、悔し紛れに話題を変えた。
「ちづ姉、一緒に打ち上げする友達もいないのかよ」
「家に帰って着替えてから打ち上げをするだけよ。誠こそ、明日入学式でしょ。がんばって友達作りなさいよ」
薮蛇だったか・・・・・。
「・・・・別に、中学の時の友達も何人か入ってるから、焦らなくても大丈夫だよ」
「同じクラスになるとは限らないでしょう?」
そりゃそうだ。
「あんた、ただでさえ無愛想なのに、目が悪いからすぐに目を細めるでしょ?あれで相当印象悪くなるわよ」
ほっといてくれ、無愛想なのはちづ姉に対してだけだよ。そう思ったけど口には出さず、むっつりと口を閉ざす。こうゆう事をするから無愛想だとか言われるのだろうが、言われてすぐに直るものでもない。
「ねぇ、誠」
「・・・・・なに?」
「入学おめでとう」
「えっ?」
「入学祝に眼鏡買ってあげる」
「・・・・・」
嫌な予感がする・・・。
「その代わり、卒業祝を期待してるからね?」
やっぱり。
心の中でため息をつきつつ、ちづ姉が学校で人気があった理由がわかった気がした。
いたずらっぽく笑うちづ姉の顔は、悔しい事に魅力的で・・・・・多少のことは許してやれる気分になる。
・・・・・もちろんそんな事は口にしないけど。
黒木誠(くろきまこと)の高校生活はここから始まりを迎える。
どうも、《すずかぜらいた》です。
もうひとつ連載してるのにやっちゃった・・・ふぅ。
『コノ手ニツカメル物』という自称・ファンタジーです。気が向いた方は読んで下されば光栄です。
さて、こちらは完全恋愛学園もの?の予定です。では、ごゆるりと