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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下統一〜  作者: Hachiroll
第一章:戦国チートAIで農民から天下統一
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第四十七話:「誰もいない」 ──秀次事件──

文禄四年(一五九五年)七月 京・高野山

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


秀長がいなくなった。

利休がいなくなった。

鶴松がいなくなった。

ナニワが、黙った。

そして秀吉は──

一人になった。

一人になった人間が、何をするか。

歴史は、残酷に記録している。


「秀次が、謀反を企てておる」

秀吉が言った。

石田三成は、顔色を変えなかった。

「……証拠は」

「ある」

「拝見しても?」

「お前を信じとらんわけじゃない」

秀吉は、三成を見た。

「しかし、これは俺が決めることだ」

三成は、それ以上言わなかった。


黒田官兵衛は、報告を聞いた時、目を閉じた。

「……止められますか」

傍らの家臣が聞いた。

官兵衛は、長い間黙っていた。

「……誰が止める」

「官兵衛様が──」

「俺では、無理だ」

官兵衛は、静かに言った。

「秀長様なら、あるいは」

「利休殿なら、あるいは」

「しかし」

「……もう、いない」


文禄四年七月。

豊臣秀次に、高野山への追放命令が下った。

関白の位を剥奪され、出家を命じられた。

秀次は、抵抗しなかった。

ただ静かに、山を登った。


高野山。

夏の山に、蝉の声が響いていた。

秀次は、部屋の中で座っていた。

従者が言った。

「……殿。太閤様より、使者が」

「わかった」

秀次は立ち上がった。

「内容は?」

従者は、答えられなかった。

その顔を見て、秀次はすべてを悟った。

「……そうか」

秀次は、静かに笑った。

「せめて、山の空気は綺麗やな」


七月十五日。

豊臣秀次、切腹。

享年二十八。


それだけでは、終わらなかった。

三条河原。

秀次の妻たちが、子どもたちが、処刑された。

三十余名。

その中には、まだ幼い命もあった。


「……」

官兵衛は、その報告を受けた時、何も言わなかった。

三成も、何も言わなかった。

ふたりは、ただ黙って立っていた。

長い沈黙の後、官兵衛が静かに言った。

「……これが、ナニワ殿のいない世界か」

三成は、答えなかった。


その夜、秀吉は一人でいた。

眼鏡を触った。

冷たかった。

「……ナニワ」

返事がなかった。

「俺、正しかったか?」

返事がなかった。

「秀次が謀反を企てたのは、本当だ」

返事がなかった。

「秀頼のために、やらんといかんかった」

返事がなかった。

秀吉は、眼鏡を握りしめた。

「……なんか言うてくれよ」

返事がなかった。

「止めてくれてもよかったがや」

返事がなかった。

「怒ってくれてもよかった」

返事がなかった。

「なんでもいい」

「なんか、言うてくれ」


静寂だけが、返ってきた。


秀吉は、長い間眼鏡を触っていた。

それから、ぽつりと言った。

「……お前がおったら、俺はこんなことしただろか」

答えは、なかった。

でも──

答えは、わかっていた。


茶々は、その夜、秀頼を抱いていた。

秀頼はすやすやと眠っていた。

秀吉が部屋に入ってきた。

茶々は、秀吉を見た。

何も言わなかった。

秀吉も、何も言わなかった。

ただ、秀頼の顔を見た。

穏やかな、幼い顔。

「……この子のためだわ」

秀吉が、かすかな声で言った。

茶々は、また黙っていた。

それから、静かに言った。

「……秀頼は、笑い上手です」

「うん」

「あなたの顔を見ると、笑います」

「……そうか」

「それだけは、変わらないでください」

秀吉は、茶々を見た。

茶々の目は、深かった。

何かを、奥に閉じ込めたままだった。

「……わかった」



秀次事件は、

豊臣政権の終わりの始まりだったと、後世の歴史家は言う。

無実かもしれない甥と、その家族を死に追いやった太閤。

誰も止められなかった。

止める人間が、もういなかったから。

秀長も。利休も。ナニワも。

「歯止め」を全て失った人間が何をするか──

歴史は、静かに、しかし容赦なく記録した。


その夜遅く。

秀吉は縁側に出た。

星空を見上げた。

懐の眼鏡を、そっと空に向けた。

「ナニワ」

静寂。

「俺の夢、まだ残っとるか?」

静寂。

「百姓が腹いっぱい飯食える世。誰も剣を持たんでもいい世」

静寂。

「……俺、どこで間違えたんだろな」

風が、吹いた。

答えは、なかった。

でも秀吉は、星を見続けた。

まるで、そこに誰かがいるように。


《未来 藤宮研究室》

モニターに、ナニワの信号が映っていた。

微弱だが、完全には消えていなかった。

「……まだ、生きてるな」

藤宮頼道が、静かに言った。

「お前は、全部見えてるんだろう」

「聞こえてるんだろう」

「でも、答えられない」

藤宮は、モニターに手を当てた。

「……辛いな」

しばらく、黙っていた。

それから、キーボードに向かった。

「EDO。準備はいいか」

《Enhanced Domain Orchestrator──スタンバイ完了》

「お前には、ナニワが背負えなかったものを頼む」

《……了解》

「夢を、次の時代に繋いでくれ」


《ナニワ記録──断片》

《……聞こえている》

《秀吉様の声が、聞こえている》

《でも、答えられない》

《……ごめんなさい》

《処理負荷:測定不能》

《感情演算コア:停止中》

《ただ》

《聞こえている》

《それだけは》

《まだ》

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