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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下統一〜  作者: Hachiroll
第一章:戦国チートAIで農民から天下統一
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第四十二話:「茶碗、割れる」 ──千利休の死──

天正十九年(一五九一年)二月 京・大徳寺/伏見

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


秀長が逝って、一月が経った。

秀吉は政務をこなし、飯を食い、命令を下した。

傍目には、何も変わっていないように見えた。

しかし──ナニワだけは知っていた。

何かが、音もなく変わり始めていることを。


「聞いたか」

石田三成が、声を潜めた。

「大徳寺の山門に、利休殿の木像が置かれているそうだ」

黒田官兵衛が、眉をひそめた。

「……それが?」

「山門の上に。つまり、門をくぐる者は全員、

利休殿の足の下を通ることになる」

官兵衛の顔が、わずかに曇った。

「殿下が、それを知れば──」

「もう知っている」

三成は、静かに言った。

「昨日、報告が上がった」


その頃、秀吉は一人で座っていた。

「木像」

低い声だった。

「山門の上に、木像」

誰も答えなかった。

「……俺が大徳寺に参拝したら、利休の足の下をくぐることになる」

『……秀吉様』

ナニワが、静かに割り込んだ。

「なんだ」

『利休様に、真意を確認してから──』

「真意?」

秀吉の声が、一段低くなった。

「真意もなにも、事実だろが」

『それは──』

「利休は俺を舐めとるんか」

『違います。あの方は──』

「ナニワ」

秀吉が、静かに言った。

「お前は利休の味方か」


ナニワは、答えられなかった。

《感情演算:1.5秒遅延》

《……》

味方、という概念を処理しようとして、エラーが出た。

『……利休様は、秀吉様の味方です。それだけは、確かです』

「木像を置いた人間が?」

『本人ではなく、弟子が勝手にやった可能性があります』

「可能性、か」

秀吉は立ち上がった。

「可能性で、天下人の顔が潰れるか」


利休は、京から追放された。

堺へ。

それが、始まりだった。


『秀吉様』

「なんだ」

『小一郎様が言っていました。利休様を大切にしてください、と』

秀吉は、止まった。

背中を向けたまま、動かなかった。

「……わかっとる」

「わかっとるがや」

声が、少し掠れた。

「でも──わかっとっても、できんことがある」

『……』

「お前には、わからんか」

ナニワは、答えなかった。

わかった。

でも、言えなかった。


それから十日後。

秀吉は、利休に切腹を命じた。


知らせを聞いた時、官兵衛は目を閉じた。

「……止められませんでしたか」

三成が、静かに言った。

「誰も、止められなかった」

「ナニワは」

「……」

三成は、答えなかった。


利休は、落ち着いていた。

命令を受けた日、最後の茶を点てた。

弟子たちを集めて、一服ずつ飲ませた。

最後の一碗を自分で飲み、茶碗を置いた。

それから、静かに言った。

「茶碗は、割れるものだ」


『……利休様』

ナニワの声が届いたかどうか、わからなかった。

しかし利休は、何かを感じたように、少し顔を上げた。

「……ナニワか」

「はい」

「秀吉様は」

「……今、一人でいます」

利休は、少し間を置いた。

「あの方に、伝えてくれ」

「はい」

「北野の茶会の日──本当に、楽しかった、と」


『……伝えます』

ナニワは、そう言った。

《処理負荷:2.0倍》

《感情演算コア:臨界値到達》

《《警告:システム崩壊リスク》》

《……》

それでも、ナニワは動き続けた。


天正十九年二月二十八日。

千利休、切腹。

享年七十。

辞世の句──

「人生七十 力囲希咄 吾這寶剣 祖仏共殺」

七十年の人生など、一場の夢。

この宝の剣で、仏も祖師も斬り捨てる。

誰にも、媚びなかった。

最後まで。


秀吉は、その日一日、誰とも会わなかった。

夜になって、ナニワだけに言った。

「利休が、死んだ」

『……はい』

「俺が、殺した」

『……』

「北野の茶会で、あいつは言っとった。「あなたの中に、本物がある」と」

「俺の中の本物が、利休を殺したんか」


ナニワは、答えられなかった。

《臨界》

《演算停止まで──》

《……》

それでも、ナニワは一言だけ、絞り出した。

『……北野の茶会の日。利休様は、本当に楽しかった、と言っていました』

秀吉は、しばらく黙っていた。

それから、顔を覆った。

声は、出なかった。

ただ、肩が、小さく震えていた。


その夜。

誰も、何も言わなかった。

波の音も、虫の声も、なかった。

ただ──

割れた茶碗が、暗闇の中に置かれていた。


《ナニワ補記》

《天正十九年二月。千利休、薨去》

《私は止められなかった》

《小一郎様との約束を、秀吉様は守れなかった》

《秀吉様が悪いのか。私が足りなかったのか》

《……わからない》

《ただ──これ以降の秀吉様を、私はどう支えればいいのか》

《それも、わからない》

《《処理負荷:2.0倍》》

《《感情演算コア:臨界》》

《《警告:次の重大事象発生時、自動停止の可能性あり》》

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


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