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【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下統一〜  作者: Hachiroll
第一章:戦国チートAIで農民から天下統一
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第十八話:「安土の光──変わりゆく男と、変わらぬ俺」

でかい。

でかすぎる。

「……なんだこれ」

天正四年(一五七六年)春。

琵琶湖のほとり、

安土山。

そこに、

信長が建て始めた城を見て、

羽柴秀吉は

しばらく言葉が出なかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

石垣が、山を覆っている。

職人たちが蟻のように動き、

巨大な石を運んでいる。

まだ完成すらしていないのに、

その規模は──

「七層って」

秀吉は呟いた。

「天主が七層……」

『地下一階・地上六階。

 最上層には金箔の瓦が葺かれる予定です』

「金箔!?」

『城全体に施されます』

「……どんな金持ちだがね」

秀吉は思わず素で言った。

『キャッスルの概念を根本から──』

「なんやそれ」

『あ、失礼しました。

 城の概念を、根本から

 覆す建築です』

「キャッスルて何」

『城のことです』

「それやったら最初から城て言やぁ」


安土城の普請奉行は、

丹羽長秀が担っていた。

秀吉が挨拶に行くと、

長秀は疲れた顔で笑った。

「羽柴殿。

 驚いただろ」

「驚いたどころじゃないですわ。

 殿はいったい何を作りたいんです」

「さあな」

長秀がため息をついた。

「俺にもわからん。

 でも、殿の命令だ。

 やるしかない」

「完成はいつですか」

「三年後……いや、

 もっとかかるかもしれん」

「そんなに」

「でかすぎるんだ、なにもかも」

長秀が苦笑した。

「羽柴殿、あの方は──

 本当に、人間か?」

冗談めかして言ったが、

その目は、

冗談ではなかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


夜。

秀吉は琵琶湖のほとりに

一人で座っていた。

湖面に、

月が映っていた。

「ナニワ」

『はい』

「信長様は……変わってきとるか」

少し、間があった。

『……何と比べてですか』

「俺が最初に仕えた頃の、

 殿と比べて」

『…………』

『変わっています』

秀吉は黙って続きを待った。

『最初は──

 革新的で、合理的で、

 でも人間らしい怒りや笑いがある方でした。

 でも今の信長様は』

「今は?」

『……孤独が、深くなっています』

「孤独?」

秀吉は少し驚いた。

「あれだけの城を作って、

 天下に名を知られて、

 孤独なんか」

『だからこそ、

 孤独なのかもしれません』

ナニワが静かに続けた。

『高くなるほど、

 周りに同じ目線の人間がいなくなる。

 誰も本音で言えなくなる。

 誰も、笑いながら叱れなくなる』

「……」

「そら……寂しいわ」

『はい』

『あなたには、小一郎様がいます。

 でも信長様には──

 今、誰がいますか』

秀吉は答えなかった。

湖面の月が、

揺れていた。


翌日。

信長に呼ばれた。

「秀吉」

「はっ」

「この城に、

 余を祀る社を作る」

秀吉は、

一瞬、聞き間違えたかと思った。

「……社、でございますか」

「そうだ。

 余の誕生日を祭日とする。

 家臣は余を神として拝め」

「…………」

(神として、拝め)

(この方は今──

 何を言っとる)

秀吉は平静を保とうとしたが、

心の中で、

何かが揺れた。

「……ご命令とあらば」

「そうだ、ご命令だ」

信長がまっすぐに秀吉を見た。

「お前は今、

 何を思っている」

「何も思っておりません」

「嘘をつくな」

信長が低く言った。

「お前の顔は、正直だ」


秀吉は、

少しの間だけ黙った。

それから、

「……殿は、神になりたいんですか」

と、聞いた。

家臣が息を呑む気配がした。

信長は──

笑った。

「神になる必要はない。

 神だと思わせれば、

 人は従う」

「それは……」

「政治だ」

信長が言った。

「人は見えないものを信じる。

 ならば、余が神であるという

 「見えないもの」を作ればいい。

 それだけだ」

秀吉は、

言葉が出なかった。

(この方は……本当に)

(怖い方や)

《信長の宗教政策:

 自身への神格化により、

 精神的な求心力を確保する狙いがあったと

 分析されています》

『……秀吉』

ナニワが耳元で囁いた。

『信長様は今、

 天下統一の最終局面に向けて

 あらゆる手段を使っています。

 これも、その一つです』

(わかっとる)

(わかっとるがや)

(それでも──

 なんか、怖いわ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


帰り道。

小一郎が待っていた。

「兄者、顔色悪いがや」

「そうか?」

「何かあったんか?」

「……殿がな」

秀吉は少し考えてから、

言った。

「殿が、神になるって言っとった」

小一郎が目を丸くした。

「……は?」

「神様だがね。

 拝めって」

「……えっと」

小一郎が少し言葉に詰まった。

「それは……どう受け取ったらええんや」

「俺もわからんがや」

秀吉は苦笑した。

「ただ」

「信長様は変わっとるけど、

 この方についていくという気持ちは

 変わらんがね、俺は」

「……なんでや」

「まだ、信じとるから」

「何を?」

「この方が、本当に

 戦のない世を作ろうとしとるって」

小一郎は、

少し黙った。

それから、静かに言った。

「……兄者は、優しいな」

「違うがや。

 ただの意地っ張りだがね」

秀吉は笑った。

小一郎も、つられて笑った。


その夜。

秀吉は眼鏡を外して、

両手で包んだ。

「ナニワ」

『はい』

「信長様は──

 この先、どうなる」

ナニワは、

答えなかった。

「……言えんのか」

『言えません』

「そか」

秀吉はため息をついた。

「まあ、ええわ」

「知りたいような、

 知りたくないような、

 そういうことってあるがね」

『……あなたは』

ナニワが、

静かに言った。

『知っていて、

 それでも進む人間だと、

 私は思っています』

「どういう意味だ」

『もし私が未来を全部話しても、

 あなたはきっと止まらない。

 それがあなたです』

秀吉は少しだけ笑った。

「……褒めとるんか、けなしとるんか」

『褒めています』

「そうか」

秀吉は眼鏡を掛け直した。

琵琶湖の夜風が、

そっと頬を撫でた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

天正四年(一五七六年)。

安土城、建設中。

信長は、

人間から何か別のものに

なろうとしていた。

それが何なのか、

秀吉にはまだわからなかった。

でも──

「俺は俺のままでええわ」

と、秀吉は思った。

天下人になっても。

関白になっても。

百姓の倅のまま、

突き進む。

それが──

羽柴秀吉だった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【次回、第十九話】

天正五年(一五七七年)九月。

加賀国・手取川。

上杉謙信が、

ついに動いた。

「越後の龍」と「織田の猿」が

初めてぶつかる。

第十九話「越後の龍、南へ──手取川に吼える」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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