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ラスティア群像劇~第2章~  作者: niseimo38


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008、危うさ

AI作成

ある日、春奈は給仕の制止も聞かずに毎回部屋へとやってくるディアーに聞いた。


春奈「ディアーさん。なぜあなたはここまで良くしてくれるの?」

ディアー「んー? 俺はやりたいことをやってるだけだよ」


春奈はディアーをじっと見る。


ディアー「まあ、強いて言うなら、そうだな。危ういからかな。お前ら全員危なっかしいんだよ」

春奈「危なっかしい?」

フォルタ「安全には配慮されているものと思われます」

ディアー「そりゃここは国ん中でも一番安全な場所だ。料理は整ってるし、フェイっつう守りの要もいるし、レン嬢って言う屋台骨もいる。でもそうじゃないんだ。何つーか、昔の吹雪さんとくれはさんを見てる感じ? あー、なんか違うな。わり、よくわかんねえわ」


春奈はじっと今言われたことを考える。 たしかに修復の現場を見ようとするのは危ないことだ。

それは過去、夏美がこの状態になったことからも容易に想像できる。

でも、なぜ彼は”フォルタも”危なっかしいと言ったのだろうか?


春奈は目を伏せたまま、静かに問う。


春奈「……フォルタも、危なっかしいのか?」

フォルタ「否定します。私は論理的行動を基準としています」


ディアーは鼻で笑う。


ディアー「そこだよ」


部屋の空気が一瞬だけ静まる。


ディアー「お前さ、フォルタ。春奈が無理してる時、気付いてるだろ」

フォルタ「観測はしています」

ディアー「で、止めない」

フォルタ「本人の意思を尊重しています」

ディアー「それをな、“一番危ねえ”って言うんだよ」


春奈が顔を上げる。

ディアーは珍しく真顔だった。


ディアー「自分が壊れるのは構わねえって目してる奴と、それを理解した上で横に立つ奴。その組み合わせはな、静かに詰む」

フォルタ「……詰む、とは」

ディアー「取り返しがつかなくなるって意味だ」


沈黙。

ディアーは少しだけ視線を逸らす。


ディアー「昔、見たことあんだよ。似たようなのを」


その一言で、さっきの“吹雪さんとくれはさん”がただの例えではないとわかる。


春奈は何も言えない。

ディアーはいつもの軽い調子に戻る。


ディアー「ま、俺は料理人だし? 止めるのは性に合わねえ。だからせめて、食えるもん出してるだけ」

フォルタ「……それが支援行動だと?」

ディアー「違う。保険だ」

春奈「保険?」

ディアー「腹が満ちてりゃ、ギリ戻ってこれる」


そこでやっと、春奈の心が少しだけ揺れる。

ディアーはそれを見逃さない。


ディアー「なあ春奈」


珍しく、まっすぐ。


ディアー「お前、“自分が壊れたら誰が困るか”考えたことあるか?」


部屋が、静まり返る。

ディアーの問いが、部屋に残る。


「お前、“自分が壊れたら誰が困るか”考えたことあるか?」


春奈は、すぐには答えなかった。

視線が、膝の上で重なる指先に落ちる。


春奈「……困らせたくないから」


ディアーは黙っている。


春奈「困らせたくないから、先に動くんだ」


フォルタの視線がわずかに変わる。


春奈「私が見に行けば、私が触れれば、少しでも早く終わるなら……それでいいと思ってた」


声が、ほんの少しだけ掠れる。


春奈「夏美がああなった時、私、止められなかった」


ディアーは何も言わない。


春奈「……もう二度と、ああいうのは嫌なんだ」


沈黙。


その沈黙を破ったのはフォルタだった。


フォルタ「訂正します」


春奈が顔を上げる。

フォルタの声はいつも通り、平坦。

だが、ほんのわずかに遅延がある。


フォルタ「あなたが破損した場合、最も困るのは私です」


ディアーの眉がわずかに動く。


春奈「……え?」

フォルタ「私はあなたを基準に行動最適化を行っています。あなたが消失した場合、行動指針の再構築が必要になります」


一拍。


フォルタ「それは、効率が悪い」


春奈は少し笑う。


春奈「それ、慰め?」

フォルタ「違います」


ほんの一瞬。

ほんの一瞬だけ、フォルタの声が乱れる。


フォルタ「……不快です」

春奈「何が?」

フォルタ「あなたが自分を消耗前提で扱うことが」


部屋の空気が変わる。

ディアーは黙って腕を組む。


フォルタ「私は合理を重視します。しかし、あなたの損耗は合理的ではありません」

春奈「でも、必要なことなら」

フォルタ「必要であっても、代替可能です」


春奈の瞳が揺れる。


フォルタ「あなたは代替不可能です」


それは、論理のはずだった。

でも今は違う。

ほんの少しだけ、“それ以上”が混ざっている。

春奈は唇を噛む。


春奈「……怖いんだよ」


ぽつり。


春奈「私が止まったら、みんな止まる気がして」


ディアーが小さく息を吐く。

フォルタの演算が一瞬だけ停止する。


怖い。


その単語は、データベースにある。

だが、今のそれは違う。


フォルタ「誤りです」

春奈「何が?」

フォルタ「あなたが止まっても、世界は停止しません。しかし」


わずかな間。


フォルタ「あなたが壊れた場合、私は正常を維持できる保証がありません」


ディアーが、そこで初めて笑う。


ディアー「ほらな」


春奈が目を丸くする。


ディアー「危なっかしいだろ?」


今度は、優しい笑いだった。


ディアー「春奈は突っ走る。フォルタは横で合理を言い訳に黙認する。で、どっちも限界まで言わねえ」


春奈は、ほんの少しだけ肩の力を抜く。


春奈「……じゃあ、どうすればいい?」


ディアーは即答する。


ディアー「弱音はけ」

春奈「今吐いた」

ディアー「足りねえ」


フォルタが、わずかに前に出る。


フォルタ「私が記録します」

春奈「え?」

フォルタ「あなたの限界値を数値化します。超過前に停止させます」

ディアー「お、いいじゃねえか」

フォルタ「そして、私の異常値も同時に記録します」

春奈「フォルタの?」

フォルタ「あなたの損耗を許容し始めた場合、それは異常です」


静かに。


フォルタ「……私は、それを異常と定義します」


それは、初めての“自己規定”だった。

ディアーは満足げに頷く。


ディアー「よし。今日は及第点」


そして踵を返す。

去り際、ひらひらと手を振る。


ディアー「粥、冷める前に食えよ」


扉が閉まる。


静寂。


春奈は、そっと息を吐く。


春奈「……フォルタ」

フォルタ「はい」

春奈「ありがと」


ほんの、コンマ数秒。

フォルタの返答が遅れる。


フォルタ

「……どういたしまして」


その遅延は、

もう誤差とは言えなかった。


ディアーは本質を見ます。それを料理に置き換えていつも最適な料理を出します。

春奈の危うさを最も知り、最も最適な方法で料理を提供する。

それが彼のやさしさであり、強さでもある。

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