019、漁師の街を襲う裂け目
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朱雀町の港は、まるで世界の呼吸を止めたかのように静まり返っていた。
普段なら潮風に混ざる漁師たちの声や海鳥の鳴き声が響くはずの朝なのに、今日は何もない。
橘敬三は高台に立ち、鼻腔を刺す潮の匂いと、風に混ざる不自然なざわめきを感じた。
空気が、いつもと違う。胸騒ぎが体を駆け抜ける。
「今日は、外に出るな――!」
敬三の声は石畳に跳ね返り、家々の軒先に消えた。漁師たちは戸口に留まり、誰も海に出ていない。
だが、それでも空気は重く、港全体が嵐を待つかのように揺れていた。
裂け目は突然、無音の破裂とともに出現した。空間がねじれ、光が鋭く歪む。
港を吹き抜ける風は、人の声を呑み込み、石畳を鋭く叩きつける。
海面は破片のように反射し、遠くの船影はまるで液体に溶けた影のように歪んで揺れた。
和美とイザヨイの足は、好奇心の引力に抗えず裂け目の縁へと向かう。
敬三は駆け寄り、腕で二人を押し倒す。「行くな!」叫ぶ声も、風に飲まれた。
その瞬間、裂け目の渦は無慈悲に敬三を飲み込んだ。
鋭い風が耳を引き裂き、塩の香りに混ざって鉄と砂の匂いが鼻腔を刺す。
祖父――橘敬三――の姿は、もう光と影の間に消えていた。
和美は口を固く結び、目を見開く。鼓動が胸を破りそうになる。
脳裏に焼き付くのは、祖父が吸い込まれる瞬間の光景だけ。
何が起きたのか理解しようとする目は、裂け目の揺らめく光に翻弄される。
イザヨイは和美をちらりと見、裂け目をじっと見つめる。言葉はなくとも、無言の決意が伝わる。
「この重さを一人で背負わせるわけにはいかない」。
風に飛ばされそうな体を押さえながら、彼女は本能的に和美を守ろうとしていた。
裂け目の向こうからは、鉄と砂の匂いが荒涼と漂う。
光は歪み、影は引き裂かれ、荒廃した世界の片鱗だけが微かに見える。
詳細は誰の目にも明かされず、ただ得体の知れぬ威圧だけが立ち上る。
風はますます荒れ、港の静寂を粉々に打ち砕く。
和美とイザヨイは立ちすくみ、恐怖と喪失の重さが胸を押し潰す。
その場にいるだけで世界そのものの不安が体を揺さぶる。
裂け目はただ存在する――見る者に、何もできぬ絶望を突きつけながら。
ここからは各地に起きている異変とそれに向き合う人々を描いていきます。
まずは朱雀町。ここでは犠牲者が出てしまいます。幼い和美、イザヨイはどのように感じたでしょうか?




