10、恐怖の正体
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春奈は窓の外に目をやる。街はいつも通りの喧騒に包まれているが、心の奥は静かに揺れていた。
裂け目の余波は収まり、夏美にも目立った変化はない。
しかし、胸の内に芽生えた感情は、誰にも見せられない重みを帯びていた。
恐怖。
自分を失い、取り返しのつかないことになるかもしれないという恐怖。
その感覚は、裂け目そのものの危険よりも深く、静かに春奈の心を締めつける。
視線は自然と夏美へ向かう。
目は虚空を見つめているようで、でも確かに姉を思う何かがそこにある。
春奈はその微かな揺れを探るように見つめ、胸の奥で小さく息をつく。
ふと、部屋の扉が静かに開く音がした。
「春奈」
声の主はハウト。柔らかさの中に力強さを帯びた存在感。春奈は少しだけ肩を張り、立ち上がる。
ハウトは座ることもなく、静かに、しかし確かな重みで語り始める。
「春奈、お前が恐れるのは当然だ。私も白雪様に仕えると決めた日から、常に恐怖と向き合ってきた」
その言葉は遠い過去の自分自身への告白のようでもあり、春奈への共感でもあった。
「白雪様に導かれ、共に立つことを誓った日、私は誓いを忘れ、白雪様が傷つく結果を生んだこともある。その痛みを背負い、私はここに立っている」
春奈の胸はざわついた。
彼女の恐怖と、ハウトの語る経験が重なる。
「私は……怖い。もし、夏美が変わってしまったら、もし自分を失ったら……!」
声に出さなくとも、心の奥で叫んでいる自分を、春奈は否定できなかった。
ハウトはその思いを静かに受け止めるように頷く。
「恐怖の正体は、夏美ではない。お前自身が失われることへの恐怖だ。それを知ることこそ、強さへの第一歩だ」
春奈は深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
その呼吸と共に、胸の奥でざわめいていたものが静まる。
恐怖の正体を知った瞬間、視線は再び夏美に戻る。
目はまだ虚空を見つめている。だが、指先の微かな動きが、姉を思う気持ちを示している。
春奈はその小さなサインを見つけ、唇の端にわずかに微笑を浮かべた。
「大丈夫……私が守る」
胸の内でそう呟くと、心の奥に確かな安心が広がった。
ハウトは満足そうに頷き、静かに部屋を後にする。
扉が閉じられる音が、かえって落ち着きをもたらす。
春奈は再び窓の外に目をやる。
街の喧騒は変わらないが、内面は静かに整い、そして確かな覚悟が芽生えていた。
恐怖を知り、受け入れたことで、春奈は自分自身と夏美を守る力を、わずかにだが確信する。
夏美の存在が、恐怖を越えた勇気の源となっていることを、春奈は静かに確かめるのだった。
ハウトは長年白雪に仕えていました。多くを学び、多く失敗した。その彼女が今度は春奈を導く。
春奈はまだ学び途中。恐怖と戦っている最中である。それゆえ、ハウトの話はより鮮明に映っただろう。




