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日本に来た貴婦人

「軍服の人達は銃を向けわたくし達を1箇所にまとめはじめました。」

プリムの話す顔には笑顔が消え声は微かに震えている。

「それってウクライナ軍ですか?」

綾音が尋ねる。綾音は普段TVのニュースやホームルームで聞いていた。ロシアは今ウクライナと戦争していると。プリムもきっと国を追われ日本に逃げてきたのだろうか。

「いいえ、わたくしの家にやって来たのはソ連軍でした。」




「お前達、よく聞け!!」

ソ連軍の軍服を着た男の1人が叫ぶ。

「いいか、たった今ロシア帝国は崩壊した。この国は生まれ変わる。今日より貴族制度は廃止、この屋敷は革命委員会の物になる。」

ロマノフ王家が暗殺され貴族達は皆屋敷を奪われ居場所を失った。仕事や住む場所、着る服まで国に決められた。プリム達一家が移らされたのは小さなアパートだった。女学校も一変。華やかなドレスは着る事はなくなり灰色の制服に身を包み授業を受けさせられた。舞踏会やパーティも行われる事はなくなった。

 



「わたくし達一家はお父様の親友である日本人を頼り亡命しましたの。」

父の親友である日本人は竹島といい日本の華族でありプリムの家と同じ伯爵の称号を持っていた。

「竹島さんのお家にはまだ小さいお嬢様がおりましたのよ。」

プリムは当時17才でロシアでは女学校の最終学年であった。英語も話せてダンスもできるプリムは竹島家の令嬢の家庭教師として働かせてもらえる事になった。

「お嬢様は綾音といって黒い長い髪に奥様から買って頂いた白いドレスがお気に入りの娘でしたの。」

「私と同じ名前ですね。」

「ええ」

プリムは立ち上がり引き出しから白いリボンを取り出すと綾音の髪に結ぶ。

「大きくなって女学校に通うようになると貴女と同じような制服で毎日登校して行ったわ。わたくしのリボンを付けて。」

プリムは綾音に手鏡を渡す。手鏡には白いリボンでツインテールに結んだ自分が映る。

「あの、お嬢様はどちらにいらっしゃるのですか?」

先ほどから屋敷にはプリムの姿だけで竹島伯爵や自分と同じ名前の令嬢らしき姿はない。

「旦那様とお嬢様は屋敷を去ってから戻っては来ませんの。今はわたくし1人ですわ。」

プリムは少し寂しそうに答える。


ボーン ボーン


その時居間の柱時計が大きく音を立てる。時計は5時を指していた。

「あら、もうこんな時間ね。」

「私、帰らなきゃ。観たいTVがあるんだった。」

「綾音さん」

立ち上がろうとした綾音をプリムは呼び止める。

「宜しければまた明日もいらして下さい。またお話しましょう。」

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