虚空の頂点 ― Neon Rankの影
工房のホログラムが突然点滅し、赤い警告アイコンが浮かぶ。
シズクの指が端末を叩く速度が一瞬止まる。
「……待って。
コロシアムの公式アナウンスが更新された」
画面が切り替わり、新しい対戦カードが表示される。
投げ銭の急増を示すグラフが、異常な急カーブを描いている。
Chrome Rank 昇格後初戦(緊急変更)
桜鉄工所 サクラ(Hybrid) vs Iron Legion "Chrome Talon"(Heavy)
試合形式:1vs1
環境ベース:溶融廃墟(投げ銭で変動)
開始まで:24時間
シズクの目が細まる。
「Reaver SyndicateのIron Reaver戦が……キャンセル?
代わりにIron Legionが割り込んできた。
Chrome Talon
Vera Ironの直属の下級生。勝利数19。
Heavyクラスだけど、Vera Ironの技術を一部受け継いでる。
クロームの爪状ブレードと、溶融フィールドの小型版を搭載」
レンがカップを置く音が、静かに響く。
「投げ銭が異常。
Iron Legionのファンが一気に動いたみたい。
Reaver Syndicateの試合を潰して、桜鉄工所を『試す』つもりね」
サクラは紅桜ブレードを握りしめ、ゆっくり立ち上がる。
オッドアイが、ホログラムに映るChrome Talonのシルエットを捉える。
黒いクローム装甲に、赤い回路が滴るように走る。
翼のような肩パーツから、溶融液が微かに垂れている。
「……Iron Legion。
Vera Ironの本隊じゃないけど……鉄の匂いがする」
シズクがデータを深掘りする。
「Chrome Talonのスペック。
主武装:『Talon Melt』――爪状のブレードが溶融状態で展開。触れた装甲を即座に溶かす。
補助:レギオン・ドローン2機(小型偵察・妨害型)。
弱点は耐久力の低さ。Vera Ironの重装甲を薄くした分、機動性は高いけど一撃でコアを狙われやすい。
……でも、投げ銭で溶融フィールドが強化されると、サクラの人工皮膚が持たないかも」
レンが優しく微笑むが、目は真剣だ。
「24時間しかないわ。
紅桜ブレードのナノ粒子を耐熱コーティングに切り替える。
桜吹雪を『溶融耐性』バージョンに調整するよ。
散る花びらが、鉄を溶かす側になる」
サクラは頷き、ブレードを鞘に戻す。
「……ありがとう。
鉄の爪でも、桜は散らない。
散っても、また咲く……ために」
クゥちゃんがテーブルの上を駆け回り、「にゃんにゃん!」と鳴いて応援する。
工房の桜LEDが、赤く強く点滅する。
24時間後。
ヴォイド・コロシアム、Chrome Rankリング。
環境はすでに「溶融廃墟」モード。
地面から赤い溶融液が噴き出し、鉄骨が熱で歪んでいる。
観客の投げ銭が、鉄の雨のように降り注ぐ。
アナウンスが轟く。
「Chrome Rank初戦、緊急カード!
桜鉄工所、サクラ vs Iron Legion、Chrome Talon!!」
リング中央に立つサクラ。
黒コートが熱風に煽られ、紅桜ブレードの刃身が耐熱粒子で淡く輝く。
対面に立つChrome Talon。
肩の翼パーツが展開し、爪状ブレードが赤熱化。
ヘルメットから、低い機械音声が漏れる。
「鉄の女王の名の下に……
お前の桜を、溶かしてやる」
サクラのオッドアイが、静かに赤く燃える。
「……溶かしてみなさい。
私の桜は、鉄より熱い」
ブザーが鳴る。
溶融の嵐の中で、桜と鉄の初激突が始まった。




