虚空の階梯
ランクとクラスの真実
Chrome Rank昇格の余韻が残る中、桜鉄工所の工房は珍しく静かだった。
サクラはメンテナンスベッドに横たわり、レンが左腕の亀裂を修復している。
シズクは端末を叩きながら、コロシアムの公式データベースをスクロールしていた。
「サクラ、Chrome Rankおめでとう。でも……これからが本当の地獄だよ」
シズクの声はいつもより低く、画面に映るランク表を指差す。
ヴォイド・コロシアムのランクシステムは、単なる強さの序列ではない。
それは「虚空の階梯」――下層の者たちが這い上がるための、残酷な階段だ。
各階層ごとに、試合形式、報酬、観客の期待値、そして「人間性をどれだけ削られるか」が変わる。
ランク一覧(2079年現在)
Scrap Rank
底辺。デビュー戦から出場可。
試合は基本1vs1、環境変化なし。
報酬は最低額。勝てば即Ironへ、負ければ部品売却か廃棄。
ここで散る戦士が、下層の人口統計を毎年更新している。
Iron Rank
最低勝利数5。
投げ銭による環境変化が解禁。
ここまで登れば「戦士」と呼べるが、まだ「消耗品」の域。
サクラはここを抜けたばかり。投げ銭の総額で評価が決まるため、ただ勝つだけでは足りない。
Chrome Rank(現在、サクラの所属)
最低勝利数15。
試合形式が多様化:1vs1に加え、2vs2、トリオマッチ、時にはフリー・フォー・オール。
環境変化の自由度が高く、リングは毎回別物になる。
アーク・ヘヴンからのVIP観客が増え、投げ銭倍率が2倍以上に跳ね上がる。
ここで名を上げた戦士は、下層の「英雄」扱いされるが、同時に「標的」にもなる。
Neon Rank
最低勝利数30。
試合はスペシャルイベント級。
痛覚共有率の上限が引き上げられ、観客が任意で「150%」まで設定可能(戦士の痛みが観客に1.5倍で伝わる)。
報酬は巨額。勝てば一夜でジャンク・クレーターの外れに家を買える。
だが、エコー・ロス進行率が急激に上がる階層でもある。
Void Rank
最低勝利数50+特別トーナメント優勝。
コロシアムの「頂点」。
試合は「虚空の儀式」と呼ばれ、リングは完全にカスタム可能。
過去のVoid Rank戦士は、現在生きている者がほとんどいない。
勝てば伝説、負ければ「完全消滅」。
Echo Rank
存在自体が都市伝説。
エコー・ロスが極限まで進行した戦士のみが到達可能。
感情ゼロ、予測不能の「虚空そのもの」。
出場すればコロシアム全体が凍りつく。
クラス一覧(戦闘スタイルによる分類)
ランクとは別に、義体のスペックと戦い方で分けられる。
試合前に登録され、観客の好みや賭けのオッズに直結する。
Blader:近接刃物特化。高速剣技と視覚エフェクトで魅せる。
Gunner:射撃・火器主体。遠距離から制圧。
Heavy:重装甲・パワー型。耐久と破壊力が売り。
Net:ハッキング・妨害特化。戦場をコントロール。
Hybrid:複数スタイル混合。予測不能で投げ銭を集めやすいが、弱点も多い。
(サクラはこのクラス。紅桜ブレード+桜吹雪エフェクト+高速機動)
Echo:クラス外。人間性を失った者専用。
出場すれば、観客の投げ銭が異常な額に跳ね上がる。
シズクが画面を閉じる。
「Chrome Rank初戦の相手は、まだ決まってないけど……アイアン・レギオンが動いてる噂がある。
ヴェラ・アイアン本人じゃなくても、下級生でもHeavyクラスで固められてるチーム。
サクラのHybridじゃ、相性最悪かも」
サクラはゆっくり体を起こす。
修復された左腕を握りしめ、オッドアイが静かに輝く。
「……相性は、刃で切り開く。
散っても、また咲く……ために」
レンが優しく微笑み、サクラの髪を撫でる。
「そうだね。
次はChrome Rankの洗礼よ。
でも、私たちがいる。
一緒に、階段を登っていこう」
工房の桜LEDが、静かに舞う。
虚空の階梯は、まだ上へ続いている。
そしてその先には、散る桜が待っている。




