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虚空の残響

2079年。

世界は「ナノ・カタストロフ」から半世紀を経て、二つの極に分断されていた。

上層――アーク・ヘヴン。

雲を突き抜ける巨大な浮遊都市群。

無限に広がるクリーンエネルギー、完璧に管理された気候、人工の青空。

ここに住む者たちは「選ばれし者」と呼ばれ、肉体の劣化をナノマシンで抑え、永遠に近い寿命を享受する。


挿絵(By みてみん)



企業連合が支配するこの楽園では、飢えも病も犯罪も存在しない。

ただし、代償として「人間性」の大部分は、データとアルゴリズムに委ねられている。


下層――ジャンク・クレーター。

かつての大都市が崩壊し、廃棄物と錆びた鉄骨が積み重なった巨大なクレーター。

放射能の残滓とナノ残渣が混じり合う霧が立ち込め、太陽光はほとんど届かない。

ここに生きる者たちは、捨てられた義体パーツを漁り、闇市場で取引し、今日を生き延びるために戦う。

法はなく、力と金だけが通貨だ。

この二極の狭間で、最も熱狂的な「娯楽」が生まれた。


ヴォイド・コロシアム。


直径300メートルを超える円形の闘技場は、ジャンク・クレーターの中心に屹立する。

周囲を囲む無数のホログラムスクリーンとドローンカメラが、戦いを隅々まで捉え、アーク・ヘヴンにまで中継する。

上層の貴族たちは、優雅に賭けを楽しみ、下層の群衆は命を削るようにコインを投じる。

ルールはシンプルだ。

義体同士の戦闘。

勝利条件は、相手のコアユニットを破壊するか、機能停止に追い込むこと。

試合はリアルタイムで賭けられ、観客の投げ銭が戦いの規模を決める。

多額の投げ銭が入れば、入ればするほど、戦場に追加の障害物が展開され、武器が供給され、時には環境自体が変化する。

「金が全てを動かす」

下層の格言そのものだ。

戦う者たちは「エコー」と呼ばれる。

かつて人間だった者、または人間の残滓を義体に宿した者。

完全な機械になればなるほど、感情や記憶が薄れていく現象


「エコー・ロス」。


多くの戦士が、これを恐れながらも、生きるためにリングに立つ。

コロシアムは、ただの娯楽ではない。

下層の者にとって、唯一の「上昇の梯子」であり、同時に「絶望の墓場」でもある。

一勝で大金が手に入り、生活が変わる。

一敗で、全てを失う。

この世界で、人々は桜のように散り、

散った後もまた、どこかで咲こうとする。

だが、その花弁は、錆と血に塗れている。


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