Mirror Void
ヴォイド・コロシアム、最深部アリーナ「Mirror Void」。
観客席が埋め尽くされ、投げ銭の電子音が絶え間なく響く中、
巨大な円形フィールドがゆっくりと鏡面化していく。
床面は完璧な鏡のように反射し、
天井から降り注ぐ光が、無数の桜とクロームの残像を無限に増幅させる。
アナウンスが冷たく響く。
「Mirror Void――開始!
サクラ vs Vera Iron!
鏡は嘘をつかない。
観客の選択が、勝敗を歪める!」
フィールド中央に、二つのシルエットが浮かび上がる。
左側――サクラ。
黒コート風のバトルスーツが風を切り、
紅桜ブレードを右手に構える。
赤黒のオッドアイが、鏡越しに自分自身を映し、
わずかに震える息を抑える。
右側――ヴェラ・アイアン《ヴェラ・アイアン》。
銀灰色のロングコートが翻り、
両腕から溶融鉄の回路が赤く脈打つ。
瞳は氷のように冷たく、唇に薄い笑みを浮かべている。
二人は同時に一歩踏み出す。
――鏡像反転。
サクラの右足が前へ出る瞬間、
ヴェラの視点では左足が後ろへ引くように見える。
動きが左右反転し、
距離が一瞬で縮まる。
「…始まるわね」
ヴェラの声が、低く響く。
彼女は右腕を振り上げ、
溶融鉄の鞭を生成。
赤く輝く液体金属が、鞭のようにしなり、
サクラの左側を狙って飛ぶ。
鏡像フィールドが即座に反転。
鞭の軌道が左右逆になり、
サクラの視点では右側から襲ってくるように見える。
サクラは即座に体を捻り、
紅桜ブレードを横薙ぎに振るう。
刃が空を切り、桜吹雪のエフェクトが舞う。
――鏡像反転。
サクラの薙ぎ払いが左から来るように見えたヴェラは、
予測通り右にステップ。
しかし、サクラはすでにその「予測」を読んでいた。
「レンが言ってた通り……
鏡は嘘をつかないけど、
動きの癖は隠せない!」
サクラはブレードを低く構え直し、
低姿勢で突進。
右足を軸に回転し、
鏡像で左側から斬り上げる軌道を狙う。
ヴェラの瞳がわずかに細まる。
「…可愛い予測ね」
彼女は左腕を振り、
溶融鉄を盾状に展開。
鏡像で右側に鉄の壁が現れ、
サクラの斬撃を弾く。
衝撃で火花が散り、
桜吹雪が鉄の熱に溶けていく。
観客の歓声が爆発。
投げ銭のカウンターがリアルタイムで跳ね上がる。
Side Vote
鉄側:68% → 72%
桜側:32% → 28%
鉄側優勢。
フィールドに溶融鉄雨が降り始め、
鏡面に赤い雫が落ちて無限に反射する。
ヴェラはゆっくりと歩み寄る。
コートの裾が鏡に映り、無数の女王が近づくように見える。
「鏡の中で、あなたの『絆』はどれだけ持つかしら?
レンの手で作られた体……
壊してみたいわ」
サクラは息を荒げ、
ブレードを握り直す。
義肢の冷却ジェルが熱を帯び、
レンの最後のチューニングが体を震わせる。
「…レンの手は、壊すためじゃない。
咲かせるためだよ」
彼女は桜吹雪を最大出力で展開。
鏡像フィールド全体に赤い花びらが舞い、
視界を埋め尽くす。
ヴェラの溶融鉄が花びらに触れ、
蒸発音が響く。
――序盤戦、互いの予測がぶつかり合う。
鏡は二人の動きを完璧に映し、
しかし、心までは映さない。
観客投票が揺らぎ始める。
桜側の票が、わずかに、しかし確実に増えていく。
サクラの赤黒のオッドアイが、
鏡越しにヴェラを捉える。
「まだ……始まったばかり」
ヴェラの唇が、楽しげに歪む。
「ええ。
壊すまで、たっぷり遊んであげるわ」
鏡像の戦場に、
桜と鉄の火花が、無限に散らばり始めた。




